終幕の半分


half of breath様、期間満了おめでとうございます。アメリアPL改めアルフェッカPLです。
こうしてご挨拶できますこと、とても嬉しく思います。大変お世話になりました。
ケヴィンくん、並びにケヴィンくんPL様におかれましては、本当にありがとうございました。夜ごと美しいレスをいただき、すき……すきです……と感極まりながら拝読しておりました。思いの丈は後ほど綴らせていただくのですけれども、何の憂いもなく、ただただ幸せいっぱいに本編を駆け抜けることが出来ましたのは、ひとえにケヴィンくん並びにPL様のおかげです。大好きです。
本編を振り返ってみたところ、各章の振り返り&好きなシーン抜き出しがとんでもない文字数になってしまいました。すみません………。あまりの文字数に我ながらドン引いてしまい、削れるところがここしかない(迫真)ということで、やたらと淡白なご挨拶となり恐縮です。最初から最後まで、ケヴィンくん……(喜)ケヴィンくん……(哀)ケヴィンくん……(好)ケヴィンくん!!(愛)しか言っていないので、お手すきのときにでも目を通してやってください。ケヴィンくんのすべてを愛しています。それから自ペアを勝手に「宝石主従」と呼んでいたので、以下多用して参ります。恐れ入ります……。
はんぶんでの思い出は語るに尽きませんが、すべては瀬見様がhalf of breath様の世界観を我々と共有くださり、管理運営へご尽力くださったおかげです。本当にありがとうございました。はんぶんに関わる皆様方のご多幸を心よりお祈りし、締めのご挨拶とさせていただきます。またどこかでご縁がありますように!アルフェッカPLでした。
▽本編振り返り
◆序章 Half of First
(まるで夢でも見ているかのような心地だった。)から始まる物語が(コッペリアが見た夢は、アメシストのやさしい夢路となって続いてゆく。)で結んでいただけた、この奇跡に感謝しかありません……。すでに感無量です。先が思いやられます。
つんとしたケヴィンくんは序章ならではの魅力にあふれていて、防戦一方のケヴィンくんかわいいな……ずっと困ってるな……とにこにこしていました。この子が噂のシャイな騎士か~今さら距離を置くには惜しいな~という軽率さでケヴィンくんとの距離を詰めにいったアルでしたが、これが終章の「ほかならぬアル自身が、僕の狭い世界を壊してくれた。」というケヴィンくんの言葉に繋がるのだと思うと心が震えます。宝石主従の夢路に無駄なことなんて何ひとつなかったんだ……。
◆断片 piece of history
(アメシストの酔夢。)というタイトルロールがあまりにも秀逸で、PL様は詩人でいらっしゃるのだな……と心の底から感動したことを覚えています。やり取りの中で垣間見えるPL様のお心遣いと技術力に感服しきりでしたが、その中でも「紫水晶」の美しい昇華には拝まざるを得ませんでした。(それは酔い覚ましの護り石たるアメシストがのぼせあがって見る夢。取り返しのつかない、過ちのはじまり。)を拝読したとき、こんなにも素敵なPCさんと一ヶ月半もご一緒できるんですか……?よろしいんですか……?とおののいたほどです。この一幕が大好きすぎて、最後の最後まで「紫水晶」「酔い覚まし」「酔夢」を乱用してしまいましたこと、この場を借りて謝罪させてください。ケヴィンくんPL様の感性が本当に本当に大好きです……。
◆一章 Half of Daytime
幼きケヴィンくんが人参も茄子も苦手だったことが判明し、かわいいの権化……と頭を抱えました。騎士として立派に務めを果たそうと努めてくれている中で、茶目っ気あふれる暇つぶしを教えてくれたり、じと目でアルを見てくれたりと二人の距離感がぐっと縮まった(と勝手に思い込んでいる)章でしたが、アル視点ではケヴィンくんへの恋心が芽生えた特別な章でもありました。こまごまとした所感は「好きなシーン抜き出し」のほうでお話させていただいたので割愛しますが、つるぎ座などという造語や逸話をエピローグにまで活かしていただけて、PL様には感謝の言葉もございません…。ケヴィンくんの誓いが剣のように美しいこと、また正論はいつかケヴィンくん自身にとっても刃になるかもしれないなとの思いで「つるぎ座」が生まれたのですが、結果的に祝福しかない流星群でしたね。よかった~!
◆二章 Half of Reason
序章のときから感じてはいたのですが、PL様の情景描写、ものすごく美しいな…?本職の方なのか…?と恐れおののきました。今後ずっとおののくことになります。(色づく落ち葉が流れる川向こう、遠く峰々は早くも白い冠をいただきはじめていて、次なる季節の訪れが近いことを威容をもって知らしめていた。)という一文から伝わる荘厳とした風景と季節感、尊敬しかありません。ケヴィンくんが負傷されてしまう痛ましい章であると同時に、なんだかんだアルに甘いケヴィンくんが終始かわいい章でした。調子に乗ったアルに辟易されたかと思いきや、いっそ魔物すら羨ましいかもと斜め上に後悔してくれるケヴィンくん……LOVEです……。二章は終章に繋げていただいたものが多いのですが、この章では却下なさっていた召喚術を伏線にしていただけて、とても嬉しかったです。
それから双晶!ここで双晶を持ってきてくださるセンス、とんでもなくないですか!?いきなり感嘆符を使ってしまうくらい興奮しました。紫水晶繋がりで工房見学を提案させていただいたのですが、双晶をも忌み嫌う様子を描くことでキュクロスの世界観を深堀なさるご手腕に舌を巻きました。そして訝しまれながらも双晶を引き取ってくださるケヴィンくんがあまりにも優しくて、わァ……ァ……と十二分に感動していたところで終章のアレです。改めて終章で書き連ねる予定ですが、今思えば完璧すぎる伏線に頭が上がりません。すごい。この振り返り、序章~一章までは必死に文字数を抑えていたのですが、もうダメでした。三章以降はもっと長いです。すみません。
◆三章 Half of Misgivings
冬のはじめの脆い日差しが照らし出すという表現、天才か?と眉を顰めたところから始まる三章でした。未だ涙なしには読み返せない章でもあり、瀬見様がドウシテ……botに成り果てたと拝読したとき「わかります……」と心の底から同意しました。ドウシテ……。自己PRでは政略結婚に対して「それが姫君の勤めであり、果たすべき役目だというのなら、僕たち騎士に出来ることはただその日までお支えすること。そうして幸せになられることを願うだけなのだと思います。」とおっしゃっていたケヴィンくんでしたが、三章においては一言も祝いの言葉を述べておられないんですよね。笑うことで自分すら欺こうとするアルの不誠実と、ケヴィンくんの誠実さが皮肉にも対比になっていて、ドウシテ……となりました。
実のところ、二章時点ではアルから秘密を明かすことはないと考えておりました。というのも、ケヴィンくんが好意を寄せてくれるのはあくまでふたりでひとりの「アメリア」であること、厳密に言えば彼が仕える「アメリア」は幻でしかないこと、そしてそれを明かせば軽蔑されるに違いないとアルは考えていたので、最後まで秘しておくつもりでした。しかし、導入テキストの国王が最高に辛辣で「これは傷つきますねぇ!」と喜び勇んで(?)やけくそアルが爆誕しました。瀬見様のおかげです。想定とは異なる展開、これぞキャラレスの醍醐味……。
そして「アルフェッカ」という名前をケヴィンくんからいただいた特別な章でもあります!この辺りからアルがPLの手を離れ始めた感覚です。アメリアとしてキャラメイクした当時、出来る限り惨たらしく死んでペアさんを曇らせたいなと考えていたのですが(最低)他の誰でもないケヴィンくんから、ケヴィンくんとの思い出に因んだ名前いただけたことで、もう私ひとりのPCじゃないんだよな……とバッドエンドから遠ざけられた気がします。本編開幕時、瀬見様がメモにて「関係性や決着はすべてお相手様との物語次第」とおっしゃられていましたが、まさしくその通りでございました。アルが「アルフェッカ」というPCになれたのはケヴィンくんのおかげです。ありがとうございました。ペア制キャラレスにおいてペア様の存在がPCに影響することは当然といえば当然かもしれませんが、名前という唯一無二をいただいたことも含め、ケヴィンくんがご一緒してくださらなければアルはもっとさみしい終わりを迎えていたと思います。
◆四章 Half of Affection
しゃがみ込んで苦悩するケヴィンくん、し、しんどい……かわいそかわいい……と人でなしな喜びに打ち震えた章でした。エドガーくんは春の夜会で退屈そうにしていた同期の彼ですか!?宮中晩餐会で教えてくれた暇つぶしの生みの親でもありますか!?と興奮しつつ、彼にしてみればケヴィンくんはある日突然姿を消すんだよな……と悲しくなりました。感情がジェットコースターです。ちゃんとした(?)所感は「好きなシーン抜き出し」で書かせていただいたのでご容赦ください。
ケヴィンくんは遅くに出来たアーデン家の一人息子であって、アーデン男爵は息子が主君と友誼を結んだと知るなり滾々と騎士の心構えを説かれる(であろう)しっかりしたお父上で、そんな御方から嫡男を奪うアルは半分の生まれでなくとも恨まれて然るべきだと思うのですが、実際のところはどうなのでしょうか……。一章当時のアルは「半分の姫に仕えているだけでも家の恥だろうに、御父上に関わってほしくなんかないよねごめんね」状態だったわけですが、互いの誤解が解ける機会があればいいなと願うばかりです。
なお、アルの四章は「(ケヴィンくん以外の)人前では泣かないこと」「本音と理性の間で揺れていること」「ケヴィンくんの愛情を信じきれていないこと」がコンセプトでした。アルはリアの愛情を信じているからこそ「私のために傷ついてほしい」「忘れないでほしい」とありのままの願いを口に出せましたが、ケヴィンくんの恋慕は自分への同情にすぎない(そうでなければならない)と思っていて、彼を解放すべきという理性と手放したくない本音で揺れていました。それでも想い人から唯一無二の名前を賜れたことは願ってもない幸いで、今この瞬間がこれ以上ない幸福に満ちていることから、忍び寄る死の宣告すら甘やかに感じるということで「ああ、ハッピーエンドはすぐそこだ。」で〆るに至りました。しかし、本物のハッピーエンドがすぐそこにあったんですよ……。ありがたや……。
◆終章 One of Bless
終章…?終章……?と現実を受け入れられないまま掲示板をリロードしたところ、(玄冬に手向ける夢の終わり。)との一文を拝見しまして、夢の……終わり……と心が潰れる思いでした。本編、本当に終わってしまったんですか?(はんぶんの亡霊)
終章は三章以上に涙なくして語れない章でしたが、あることないこと言い募るアルに対して律儀に全修正を入れてくれた序盤のケヴィンくん、めちゃくちゃかわいくてびっくりしました。序盤といえば「僕だって幸せだった。」と過去形だったことからPCPLともども死亡エンドを覚悟しまして、せめてケヴィンくんの手を汚させないようにと投身を提案したわけですが、まさかのお怒りに恐れおののきました。しかも苛立ちの対象は運命の輪なんです……聖人であらせられますか……?アルの「おまえ」呼びは親類もしくは親類に近しい人間にしか使わせないつもりだったのですが、ケヴィンくんのおかげで予定は未定にすぎないのだなとつくづく感じました。図らずも解禁された「おまえ」呼ばわりでしたが、本音がより本音らしく響いたんじゃないかな~とほっこりしています。それにしても宝石主従、なんだかんだ喧嘩が多そうでかわいいですよね。他愛ないことはケヴィンくんが折れてくれそうな気がしますが、アルが自分を軽んじり蔑ろにしたときは頑として譲らないでいてくれるんだろうなと期待してしまうほど、ケヴィンくんの想いが本当に……本当にまっすぐで……(泣)
終章に関しては全文抜き出したい衝動に駆られてしまい、さすがに気持ち悪かろうと「好きなシーン抜き出し」に引っ張らなかった大好きポイントが多々あるので、掲載場所を変えれば誤魔化せるよね!ということでこちらで愛を叫びます。失ったはずの激情をケヴィンくんに呼び起こされて、アルは衝動的にケヴィンくんの頬を叩こうとしたのですが、それを甘んじて受けるだけではなく、むしろ叩いたアルの方が痛かったのではないかと心配してくださって、わァ…ァ…(泣)となりました。上手く言葉に出来ないのですが、叩かれたケヴィンくんの(横向いた視線を戻せば、)という表現がめちゃくちゃ大好きなんですよね……じゃじゃ馬を静かに受け入れてくれる器の大きさを感じずにはいられないというか、すごく大人っぽいというか……。終章は「またそういうことを……」でしたり「わがまま、」でしたりと、アルのどうしようもないところも許してくださるような呆れ方がウルトラハッピーでした。
さて、ウルトラハッピーといえばエピローグに繋がる伏線をいただけた章でもありましたが、ケヴィンくんの「落ち着いたら」が3年という短からぬ時間だと誰が予想できたことでしょう……。はちゃめちゃ真面目で愛が深まりました。ここで召喚獣を物語に組み込んでくださったのも全くの予想外で、PL様……一生ついていきます……という気持ちになりました。ケヴィンくん並びにPL様の繊細なお心遣いに感謝しきりの本編であったとつくづく思います。基本かわいくてたまにものすごく男前という講評に対して「たまに……たまになんだ。」と思わず口を挟まれたケヴィンくんはかわいいほうのケヴィンくんで、急に星降る夜の物真似をされて憮然とするケヴィンくんもかわいいほうのケヴィンくんでしたが、あのときの物真似はアルなりに場を和まそうとしていたということを蛇足ながらお伝えさせてください……ロールに書き忘れたなとレスをいただいてから気付きました……(ポンコツ)文字数がすごいことになっています。エピローグ振り返りはもう少しシンプルにまとめたいと思います。
◆エピローグ Half of Breath
タイトルロールに初見で殺されました。(エレスチャルの残夢。)ですよ……わァ……ァ……(泣)ケヴィンくんのおかげでアメシストにめちゃくちゃ詳しくなりました。ありがとうございます。エレスチャルは短期間のうちにたくさんの結晶化が起こることで生まれた変則的な結晶とのことで、秋冬という短い時間の中、ありったけの恋をして、半円でも真円でもない自分たちだけの形を求めて旅立ったふたりにぴったりだなと……。めちゃくちゃ私事なのですが、勢い余ってアメシストエレスチャル×ブルートパーズのブレスレットを購入してしまいました。宝石主従の概念を入手できて幸せいっぱいです。幸せいっぱいといえば起き抜けのぼんやりまなこを瞬かせるケヴィンくん、めちゃくちゃにかわいかったですね……。キュクロスを出たエピローグだからこその描写に感動しながら、同じ拠点は構えても別行動の可能性を与えてくださったことがすこし意外で、とても嬉しかったです。エピローグを拝読した当初は「ついていくだろうな……悪い虫を払わなきゃいけないしな……」と考えていたのですが、王室で育てられたアルを連れて見ず知らずの土地で生きていくことは、ケヴィンくんに並々ならぬ苦労を強いたのだろうな~ということで、自分の力で最低限の食い扶持を稼げるようになってからケヴィンくんにくっついていくように変更しました。ケヴィンくんはいつも光のほうへ導いてくれます。
こちらのPLメッセージを書き終えてから「好きなシーン抜き出し」に着手したので、ケヴィンくんへ捧ぐ最後の愛の叫び(?)はそちらで試みるとしまして、アルのエピローグについてすこしだけ補足を。エピローグのタイトルロールはケヴィンくんに寄せるぞ~!と決意していたこともあり、縁起のよい夢、吉夢を意味する「瑞夢」はすぐに決まりました。あとはアメシスト関係の何某だな……何にするかな……と調べていましたところ、ロマネサイトインアメシストに出会いまして、これしかないなと思い至った次第です。ロマネシュ鉱が内包されたロマネサイトインアメシストですが、ロマネシュ鉱がアメシストと共生することは滅多にないこと、またアメシストの成長過程で内包されたロマネシュ鉱は放射状の星型を保つとのことで、ケヴィンくんの紫水晶の瞳に映るアル(星)は不純物ではなく、その価値を上げる内包物になれたら!いいな~!という気持ちでした。勢いのまま筆を走らせましたが、このパッションが伝わることを祈るばかりです。終章で「待つ」と口にした手前、おとなしくプロポーズを待っていたアルですが、結婚指輪はアルからケヴィンくんに贈るんじゃないかなと思います。なんて幸せに彩られた恋物語なんだ……。
▽アルについて
精神的に自立している姫のほうが騎士PCさんの良心が痛まないだろうな……という安直な考えで生まれたPCでしたが、ケヴィンくんのおかげで「ふつうの女の子」になれました。ありがとうございました。絶対に死ぬPCだと思っていたので、ウルトラハッピーエンドを迎えられたことに今でも驚いています。
イメージカラーのオータム・グローリーは、ケヴィンくんが序章で触れてくださった「豊穣」を示すアメリアの名に因んで選びました。豊穣=実りの秋!という連想ゲームでした。グローリーか……双子の妹に栄光なんてあるわけないのにね……と皮肉を含めて選んだ覚えがございます。日本人的感覚にはなりますが、アメリアの愛称として分かりやすい「リア」を姉にしよう、愛称として分かりづらい「エイミー」を妹にしようというということで双子の呼び分けを決めたので、アルフェッカという唯一無二の名前をいただけたことは本当に幸せなことでした。
アルの誕生日は全く想像もしていなかったので、ドウシヨ……botになっておりましたが、イメージカラーにオータムが入ってるし秋だよな……9月……?からの9月7日の誕生花「ブルースター」を見かけて即決しました。ブルースターは咲き終わりに近付くにつれて、水色の花弁が紫色に変わるそうです。花言葉は「幸福な愛」「信じ合う心」ということで、もうこれしかないなと思いました。ケヴィンくんありきのアルフェッカです。ありがとうございました。
嵐でも夕凪でも。主君の所望する通りの騎士であれたなら、それで。[序章]
…………追いかけましょうか?(一先ず、判断を仰ごうと困惑気味に振り返る。)[序章]
(しかし突然取られた掌にいよいよ双眸を限界まで見開くと、詰められた距離のぶんだけ腰が引けそうになる。)ゆうじん、とは、いやその…………努力はしますので、ひとまず手を、放していただけませんか……?[序章]
ふつうの子どもでしたよ。父や祖父の経験した武勇伝や、邸を訪れる旅人の語を聞くのが好きで、真似事が高じて剣の道に進んでいました。[序章]
……それが、姫の望むご命令なら従います。傍付きの騎士などいらないとはっきり仰ればいい。[序章]
(騎士の身には過ぎた想いに睫毛の下で震えていた紫水晶は、救いの如く差し出された片手に敬意を込めて膝をつく。許しを齎す側は、此方ではないというのに。)はい、アメリア様。必ずや貴方のため、精一杯務めてみせます。(冒険に出てはいても傷ひとつない貴婦人の指先。そこに自らの掌を重ね恭しく頭を垂れたなら、忠誠の誓いは恙なく成されるだろう。)[序章]
折を見てどなたかと踊られますか?体を動かしていれば、時間の経過も多少は早くなるかと。あるいは……あちらにいらっしゃる強面の紳士が何を考えているか予想してみますか?人参は嫌いだなとか、愛娘への土産に悩んでいるだとか、案外お可愛らしいことかもしれませんよ。[一章]
(醒ます者のいない夢は作り物に似てうつくしいままで、だからこそ手を伸ばせば壊れてしまいそうな恐ろしさもあった。そうして踏み出せなかった一歩が、またひとつ血を流させたとしても、紫水晶の刀身は穢れを知らないまま。)[一章]
姫が師事されていた音楽家の曲だと伺いました。題名はたしか……“人形の見る夢”[一章]
(彼女が城内の抜け道に詳しいことは短い付き合いであっても薄々察しつつあるので、答えを待たない強引さで片手を差し出したなら、)少しだけ、冒険に出ましょう!こんなところに居ては、息がつまってしまいます。(前言撤回。重責のご褒美は先払い。ふたりで星の海へと漕ぎ出そうと、笑顔で誘った。)[一章]
でも、僕はこうも思ってしまうのです。曰く付きになったら僕も半分の騎士と呼ばれるのだろうか。ではその半分の騎士が偉大な何かを成せたなら、姫の悪評をそそぐこともできるのではないか――と。[一章]
(咄嗟に聡明な蒼を見返したところで片手を引かれ、油断だらけの騎士の上体が傾ぐ。なんらかの声を上げる間もなく縮まった身長差の中、紫水晶に映るのはただひとりだけだった。)[一章]
(ぴかぴか輝く一等星みたいな笑い声が宵の天幕に響き渡るのを恨みがましく思いながら、背けた顔を覗き込まれたならしぶしぶと蒼を見返す。吸い込まれそうな透明度は落ちていくことも飛び立つことも出来る色だから、こんなにも魅入られてしまうのかもしれない。)[一章]
(座興が終わった後は惜しみない拍手を送り、素晴らしい演奏だったと興奮気味に褒め称えた少年は、その晩不思議な夢を見た。そこには金髪碧眼の少女と人形が現れて、うりふたつの二人は病など忘れたようにはしゃぎながら騎士を伴い冒険へと繰り出す。灼熱の砂漠、広大な海原、虹のかかる丘を越えて。辿り着いた星降る夜に繋いだ手の先にいたのは、いったい誰だったのだろう。――それは真実を暴けばうたかたに消え去るコッペリアの幻。脆く儚く、けれど感傷の余韻だけが心を捉えて離さない、そんな幸せな夢だった。)[一章]
(矛先にいる蒼がまだそこに留まっているのか、それとも逃げ出しているのか判じられなかったが、剣を捨て身を翻した少年の疾駆は速かった。)――アメリア様!!(彼女と竜の間に割って入った左肩に、鋭い爪が食い込む。痛いというより熱い衝撃に耐えつつ懐から二刀目の短剣を引き抜いたなら、至近距離にて竜の目に突き立てた。)[二章]
(こわごわと主君の顔色を窺う少年はなぜか両手を背後に隠したまま、数拍躊躇ってから続けざまに口を開く。)あの……ご用件の前によろしければこちらを。川のほうに咲いていました。とてもいい香りだったので、少しでも姫のお慰めになればと。(そうしてそっと差し出したのは、小さな紫色の花が集って咲く小枝。可憐な姿ながら芳しい芳香を放つヘリオトロープだ。)[二章]
では叱らせていただきます。(改まった宣言を告げて、ぽんぽんと二度、軽い力加減で彼女の頭上を叩いた。ほとんど撫でているようなものだが、お叱りは以上である。)[二章]
(手の甲に触れていた指先を包むように、まだ動かしにくさのある左手を重ねた。そのまま少しだけ体を前に出せば、狭い車内では自然と秘め事めいた距離になる。ただひとり、彼女にだけ伝えたいことを伝えるための、ひとときのふれあい。)姫を置いてどこにも行ったりしません。ご安心ください。[二章]
(馬車に揺られる道中では「人魚のために他国には行けません」だの「冥界の響きが物騒だからダメです」だの、検討結果のノーを突き付けていたので、最後の方は受け答えが雑になっていたかもしれない。)[二章]
……?(提案したそばから撤回されると逆に意味深に思えてしまう。怪訝そうな顔で考え込んだ後、はっと察しが行ったように。)もしかして、姫が体験してみたいのですか?それなら僕も微力ながらお手伝いしますので、やってみても構いませんよ。(何気なく問い返したところで、工房主の夫婦が驚いた顔をしているのが目に入る。ああそうか、普通は王族が職人の真似事などしないのだと。今更のように思い出した。)[二章]
(とっておきとばかりに見せびらかされたエプロンに眦を下げていたが、当たり前のように背中を向けられ流石に当惑する。怪我とは別の理由でぎこちない指先が、どうにか蝶々結びを完成させるも、多少傾いて不格好なのはご勘弁願いたい。)[二章]
(完成品を受け取る様をぼんやり立ち尽くしたまま眺めていたが、そこから近距離で命令を受ければ固まらざるを得ない。ラペルピンの曇りない輝きと、厳しい面差しに意味もなく圧倒され、思わずぎゅっと瞑った瞳。それが再び開いた時、目の前にあったのは眩いばかりの笑顔で。)[二章]
息苦しいと感じるのは、何も隠すことなく真摯に向き合いたいからでは?以前の晩餐会でも僕がついた嘘や評判ばかり気になさっていましたし、今日は謝罪してくださいました。……姫はいつも、ご自身より他者のことを尊重される。そんなところが放っておけないのです。(人々は言う。末の姫は忌まわしい半分なのだと。だが誰よりもそう思っているのは姫自身ではないかと気づいた時から、一人きりにはしたくないと願うようになった。貴方を大切に想う人間がいるのだと伝えたかった。)[二章]
(激動の一日の最後に迎えた夜の中、滞在先の寝室まで姫を送り届けたなら、別れる直前に紫水晶は微笑みを向ける。――おやすみなさい、よい夢を。お決まりの挨拶を唇に乗せて非日常の終わりを手招いたなら、今宵は衛兵とともに警護に参加するつもり。どこにも行かない約束は扉を挟んでも有効なのか、それは見果てぬ蒼のみが知る。)[二章]
(倣うように空模様を確かめた双眸にはいまだ戸惑いが色濃く表れている。けれどもうすっかり慣れてしまった友人の近しさで手を引かれたなら、いけないと分かっていても振り払うことなどできなかった。)[三章]
何も、ご無理はなさっていませんか?(もはや幼いままではいられない。自分も、彼女も。それでも最後の退路のように気遣いを向けたのは、作り物めいた微笑みがうつくしくも凄然として見えたせいだ。)[三章]
ひとつだけ、お伺いしたいことがございます。発言をお許しいただけますでしょうか。(出会いの頃に返ったかのようなぎこちない態度。問う騎士の頭にあるのは、たったひとつの疑問と、何より大きな恐れだけ。)[三章]
(成婚に係る姉妹の去就は不明な部分も多いが、少なくとも彼女は全てを姉に譲り、存在ごと消えてしまうつもりなのか。それを一方的だ、勝手だと、責める権利はないのだけれど。)[三章]
(距離も立場も壊してようやっと伸ばそうと思えた手を、人形のように白い頬へと添えたがる。あたかも人としてのぬくさを確かめるように。そのまま小さく雨除けの呪文を唱えれば、頭上をぽつぽつ打つ水滴を弾いて濡れるのを防いでくれよう。紫水晶にまっすぐ映す蒼は、不純物ではない。焦がれ続けたたったひとつの星の光。それが掴めるのなら、もう、空が落ちたって構わなかった。)――ずっと、貴方をお慕いしておりました――。(紡ぐは静けさは告解に似ていた。けれど直後にほどけるよう浮かんだ表情は、あえかな熱を伴う。灰色の雨模様にはまったく似合わない、甘く柔らかなはにかみ笑い。)[三章]
(忠誠心の影に隠した不毛な片恋も、時を経て砂と土に埋もれてしまえば、いつかはうつくしい宝石になるのだと信じていた。純度が高いまま、何も損なわず。けれどこのままでは大切な人の未来が閉ざされてしまうなら、少年が差し出せるのはこれぐらい。)でも……最後だなんて、やっぱり納得できないよ。(冒険も戯れも、過分な幸せも、きっと姉姫は与えてはくれない。だから寂然と呟いた。天の慈雨を涙の代わりに。)[三章]
おんなじ顔でも、代わりにはならない。姫でないと嫌なんだ。(包み込む手の危うさ。睨み拒もうとする、強い意思。同じ色の二対であってもこのような激情を宿しているのは彼女だけ。そうしてそれを押し殺そうとするのも、彼女の方だけなのだろう。)[三章]
僕が騎士を志したのは、この命や人生を、誰かのために費やしたかったから。僕が差し出せるすべてが役に立って、そうしてたったひとりでも認めてくれる人がいるなら、それだけで幸せだと思ったんだ。[三章]
……悔しい(あえかな吐息を伴い、絞り出すような声で呟く。)貴方だけ、と応えたいのに……呼べる名前がないなんて……。(「アメリア」も「姫」も示すのはひとりではない。想う相手の本当の名前すら知らない。今更思い知った事実に打ちのめされて、抱きしめる腕に力が籠る。)[三章]
夕凪より嵐を選ぶのはおかしい?何もかも通り過ぎた後に、一瞬でもうつくしい朝が来るなら、僕はそれで十分。(いつかのように、善き主の望み通りに振る舞う正しい騎士ではいられなかった。たとえ破滅を招いたとしても、幸いが刹那でも。今はただひとりが欲しいのだと、希求をやめられない紫水晶が恋慕を灯す。)[三章]
…――アルフェッカ、――アル。(暫しののちに唇から零れたのは、星の名前。流星群の夜が過ぎてから、少しだけ星座について調べた。つるぎ座、はがね座、と書物のページを捲る合間に目について覚えていた、かんむりの中央で輝く宝石。半円の上の明星。)[三章]
なら、これで本当に半分の姫の半分の騎士だね。(おかしいと言い切られ悔恨を見せられても、気負うことのない口ぶりが喜色を滲ませる。自ら蔑みの呼称を使うなど酔狂に違いない。気の迷いと取られても仕方ないだろう。だが、不純物であっても気苦労であっても、もはや少年にとっては大切な一部だ。そのことを理解してほしいと思うのは、彼女が誰よりも、それこそ少年自身よりも、この紫水晶を慈しんでくれるからで。)[三章]
……もう、わかってるくせに。(鼻先に掛かる過日と同じ問いかけに、観念したよう白旗を上げる。硝子を隔てぬ蒼の悪戯具合を拗ねたように見遣ってから数瞬、濡れたままの目尻に口づけを落としたのは、ほとんど仕返しのような――。)[三章]
(やがて分厚く垂れこめていた雲が切れ、隙間から光が差し込み始めたなら、いつまでもこうしてはいられない。後ろ髪引かれる思いを引きはがし、泣きはらした顔の姫君に制服の外套を貸す。それでも今の彼女を誰にも見せたくはなかったから、小城の中まで送ると申し出て。)明日も会いに来るから、待っていて。[三章]
(黙っていると険のある目元が、少しだけ似ていると思った。跪く騎士に楽にせよと命じる響きも、今はここにいない人を思い起こさせた。)[四章]
(無意識に胸前で握りこんだ拳が白くなる。姉妹の見分けがつかないようだったと、ひび割れそうなアルトを思い出しては、王の面持ちがほんの少しでも動くことを期待する。だが遠くを眺めるまなざしに変化はなく、問いの答えも返らない。最悪だ。最悪だった。)[四章]
(忠実なる真円の騎士、と、色のない声が呼ばう。瞬間的にかっと頭の中で爆ぜた感情は、後から思えば憤りに近かったのかもしれない。咄嗟に反論しようと口を開いて、でも言うべき言葉が見つからなくて、結局は何もかも飲み込んだままその場を後にするしかなかった。)[四章]
(身内への手紙ぐらい自分で出せばいいだろうと不思議そうな顔。もっともだ。当然のごとく返る疑問に少年は答える術を持たない。否、答えるわけにはいかなかった。王室最大の秘密を知った今、些細な手紙も改められ、故郷の地すら二度と踏めないかもしれない。だがそれを全く関わり合いのない彼に、いったいどうやって説明しろというのか。)[四章]
夜中にこんなところまで呼び出してごめんね。……寒くはなかった?(ついつい眉を下げて心配を口にして、そこで腰に吊った剣がカチャリと音を立てたものだから、紫水晶の奥で光が波打つ。これから自分がやる事を思えばおかしな言動だが、何から切り出せばいいのか分からない。)[終章]
全然似てないよ。そこまでそっ気のない言い方をした覚えは……いや、どうだったかな……?[終章]
(石造りの欄干の向こう、雪間に眠る景色を見渡す。頭上に星影はなく、音すら消えた静かな夜だ。まるで自分たち以外のすべてが絶えてしまったような孤独感に、唯一確かな傍らの存在へと身を寄せたがる。)[終章]
残念だけどそのとっておきは通らないよ。今はもう、ちゃんと見分けられると思うから。(確証はない。姉妹が本気で騙そうとしたらさすがに分からないかもしれない。しかし敢えて断言したのは想い人に対する意地であると同時に、そうなりたいと願ったから。)[終章]
(ほんの少し泣きそうに歪んだ顔は、けれどどうにか真顔のままで持ちこたえられたから、彼女の指先を頬から外させたなら、手のひらにそうっと唇を寄せんとした。悪あがきの睦み合い。)[終章]
(夢見が悪かったのは否定しないが、それは彼女のせいではない。処分を決めたのは王だし、双ツ子を忌むのは民衆、発端に至っては建国神話だ。それなのに向けられた背中はすべての罪過を背負いこもうとする。折れそうな肩で、遍く祝福を受けるはずだった王女の身で。)[終章]
……アルの分からず屋。(ぽつりと、恨みがましい呟きが零れる。もっと他に慰めたり励ましたりする言い方はあるはずなのに、口から出てしまえば感情が言葉に流されるのを止められない。たとえるならそれは音もなく燃える青い火が、輝石を熱して揺らめくような。)[終章]
アルは僕を憐れんで、自分を責めて、それで納得してるみたいだけど一方的だ。幸せだって言ったよね?困らせてくれてもいいって。全部強制されたわけじゃなく、僕が決めた意思なのに。[終章]
(衝動のまま喋ってしまったことで上がった息を、空白の時間を置くことで整えたなら、問いかけは冗談か本気か。試しているのか気まぐれか。困り顔の微笑からその内心は到底読み取れないけれど、生きたいと願っていた、その希望だけをよすがに懐から小瓶を取り出して。)そんな真似するつもりなら、僕のほうが先に死ぬ。どうせ命令通りに事を運ばせたところで、陛下に飼い殺されるか処分されるだけなんだ。処刑人が消えることでアルを一秒でも長く生かせるなら、本望だよ。(蓋を開けた瓶を口元に寄せながら、据わった目で宣言する。姫君が欄干を乗り越えるより、おそらくこちらが中身を呷る方が早い。もっとも彼女に尽くすべき我が身を脅しに使うのは、不本意ではあったのだけれど。)[終章]
優しい?僕が?(ふ、と唇が弧を描いて、不可思議な話を聞いたように瞬きを一度。けれど目だけはまったく笑っていなかった。本当に優しい人間なら命を秤に乗せること自体しないのだと、小瓶の中の液体を見ながら思う。)[終章]
ふざけてなんか…。(売り言葉に買い言葉で低く反論してから、失敗だったと後悔がよぎる。途切れた言葉を隔てて溢れる涙。気品をかなぐり捨てた慟哭と胸を打つ拳に、腹の底で煮えていた感情が萎む。)[終章]
不毛なのは知ってる。だから誰にも明かさないつもりだったんだ。それでも欲しくて、諦めきれなくて、戻れる道を塞いだのは僕だ。アルが悪いわけでもないし、間違っていたとも思わない。(貫く視線を緩く見返して、片手を伸ばす。頬を流れる涙を指の背で拭い、問いかける。)……普通の幸せってなんだろうね?(一般論ではなく彼女個人の考えを聞きたい口ぶり。)[終章]
言葉だけじゃ足りない?(両手で下向いた顔を捉まえて、紫水晶が視線を交わしたがる。)未来が怖い?(重ねた問いは確認のようなもの。一呼吸置いて、先ほどの彼女と同じように愛しい輪郭をかたどる。)じゃあ、ずっと死ぬことを考えるなとは言わない。…一日、一日だけでいいよ。その間に僕が心変わりしなかったら、また次の一日も一緒に生きて。(願うのは大仰な誓いを必要としない当たり前。酔いが醒めることを恐れるなら、繋ぎとめる自信を持てないなら、今ここで説く愛だけを見ていてほしいと。真剣に。)アルフェッカ、僕のすべてを貴方にあげる。だから代わりに、アルのこれからをください――。[終章]
そうだね。アルに関することだけは、譲るつもりはないから。(この恋と幸福こそ、何もかもを失っても護りたい唯一。国王にも死神にも、それこそ彼女自身にだって明け渡すつもりはなかった。)[終章]
……僕も同じ。アルが傍で笑っていて、好きだと言ってくれて、ときどき僕のために泣いたり怒ったりしてくれる。それだけで普通に幸せだから、後悔なんてしない。絶対に。[終章]
勿論。今日の僕も、アルのことだけを愛してるよ。(曇りのない笑顔で告げる。夢が覚めてもこの恋が消えないように。片割れと分かたれたひとりが生きてゆけるように。愛しい人のまろい頬に添えた両手を引き寄せて、眼鏡に当たらないよう角度をつけながら触れたくちづけは、言葉だけでは足りない分を補ってくれればいい。)[終章]
冗談でもやめて。別の誰かなんて考えたりしないで。(自分でも意外なほどはっきりと声音が落ちる。架空の誰かすら視野に入れるなというのは、怒りと共に明かされた欲心より性質が悪かったかもしれない。)[終章]
は、はじめてだけど……お願いだからそういうことは聞かないで……。(一向に消えない羞恥が憎い。惚れた弱みか年下ゆえか、上機嫌なばかりの砂糖菓子から目を逸らし消え入りそうに答える。いやむしろ消えたい。)[終章]
うん?(雪風の入り込まない室内に戻り、薪の爆ぜる音が響き始めたところで切り出された言葉。改まった様子に首を捻るも、握られた手が震えているのを見て取れば、力を籠めて握り返す。)大丈夫。ちゃんと聞いてるから、ゆっくりでいいよ。[終章]
(ほとほと困り果てた様子で眉根を寄せてから、浅く息を吐く。)わがまま、(咎めるような言葉に反して、声の調子に強さはない。どちらかといえば仕方ないなと言わんばかりの、意地悪すら愛おしむ口ぶり。)[終章]
きら……(愛を説くと決めた初日からこれでは、なかなか先が思いやられるかもしれない。問いの体を取っていても答えは分かっているのであろう、砂糖まみれの甘えたから逃れかけた視線は、結局のところ観念したように元に戻る。これだけ幸せそうな顔をされて、無下にできる人間が果たしているのだろうか。)……い、じゃない。アルのわがままは、僕を見てくれている証拠だって分かるから。少し困る時はあるけど、そういうところも含めて可愛いし、好きだな……って。[終章]
一つの水晶を二つにして、遠見の魔法を籠めてもらったんだ。片方を握りしめて念じると、もう片方の周囲の景色が短時間だけ見える魔道具らしいよ。(元々が研磨工房で譲ってもらった双晶だということは一応伏せつつ、使い道を説明してから。)もう一つの方は婚約祝いとして贈っておいたけど……余計なお世話だった?(ここまで言えば大方の意図は伝わるだろうか。反応を窺うように問いかけながら、そろりと視線を向ける。)[終章]
で、なんで忘れ薬をあげようと思ったの?説明してくれないと本当に叱るよ?(焼却処分したからといって有耶無耶にするつもりのない静かな口調。既に心置きなく叱っている気もするが、脱出の準備自体は黙々と進めていく。)[終章]
後味が悪くても瑕になっても、大切なひとから与えられたものは失いたくない…――僕はそう思うけど、アルは違うの?[終章]
(6cmぶん、明日への距離を先に縮めたさやけき明星。請われる愛にひととき言葉を失ってから、淡く微笑んだ。)いや、いいよ。目を閉じて。(まっすぐに見つめた双眸から硝子板を抜き取って、いつかの悪戯をなぞるように願う。息が混じる距離までくちびるを寄せ、けれどそれきりにはならず、ゆっくりと互いの影が交わった。)明日も明後日も、その先も、僕が愛してるのはアルだけだ。だから……必ずふたりで幸せになろう。(窓から差し込む雪明かりの下、ごく近い距離で見つめあったまま甘やかに語りかける。結局のところ、一日どころではない未来を夢見る紫水晶のあやまちは増すばかりだ。)[終章]
それなら、たくさん困ってほしい……って思うのはいけないことだよね。(ほとんど独り言のようにぽそりと呟いて、身勝手な我欲を打ち消すようにかぶりを振る。今でも十分好かれている自覚はあるのだから、もっとを望むのは酷だろう。)[終章]
(たとえば彼女の生命が尽きる瞬間を目の当たりにして、自分がその時本当に正気でいられるのかは分からない。だが、なかったことにしたくないのも本当だ。だからと頭の片隅で思う。彼女が死を望んだり、制止も聞かず飛び降りたりしていたら、きっとその時は紫水晶も共に砕け散る道を選んでいただろう、と。)[終章]
(振り返った明星に僅かに滲む水雫の跡。悲哀ではなく幸福の証たるかんむり宝石が、紫水晶だけのものであることに、心が震える。)生まれてきてくれて、僕を見てくれてありがとう。アルフェッカ。(万感の想いを籠めて、前に座すあたたかな体を抱きしめたなら、触れ合う場所からもこの愛しさが伝わってくれるだろうか。伝わってくれるといい。)[終章]
(目下の課題は山積みでもふたりならきっとやっていける。半分でも真円でもない、自分たちだけが望む形を目指して。生きてゆく限り絶えず巡る日々と季節とを繰り返し、やがて満天の星空の下でたったひとつの祝福と再会するその日まで――コッペリアが見た夢は、アメシストのやさしい夢路となって続いてゆく。)[終章]
(真白いシーツに散らばる髪を指先で辿って、そっと頭を撫でようとして。さて夢見のさなかにある蒼が、かつての騎士を映すのはどのタイミングだろう。いずれにせよ、薄明の中で紫水晶が甘やかな微笑みを形作ることに、変わりはないのだけれど。)おはよう、アル。起こしてしまった?(当たり前に紡ぐ挨拶。借りている部屋の手狭を建前にひとつしかない寝床。一日のはじまりから彼女の心を自らでいっぱいにしたい、そんな稚拙な企み。どれだけ季節が巡り、どれほど遠くへ赴いても、同じ言葉を説き続けることを止めるつもりはなかった。あの夜の約束の通りに。)今日の僕も昨日と変わらず……ううん、昨日よりももっと、愛してるよ。[エピローグ]
ええと、それというのも、今日は大切な話があって。(潮騒の音に耳を傾けながら、切り出しにくそうに夜色の髪をかき上げて。たっぷりとした間を挟んだ後、意を決したように彼女の左手を掬う。従者だった昔と変わらぬ恭しさで、けれど一方では許可も取らない傲慢さも持ち合わせたまま、薬指に嵌めたのは婚約指輪だ。白銀のリングに、彼女の虹彩によく似た色のブルーダイヤモンド。添えられたモチーフはオレンジの花らしい。サイズは以前雑談の折に聞き出したから合っているはずだが、それでも緊張した面持ちで。)[エピローグ]
アルは前に、僕を繋ぎとめる自信がないって言ったけれど、自信なんてなくたっていい。僕のかけがえのない人は、間違いなくアルだけだから。(まっすぐな宣誓は迷いも折れもしない。出会いの秋に交わした主従の契りとは異なるのに、根底にある一途さは変わりないまま、紫水晶は明星の輝きに焦がれている。一目見た時から、ずっと。)――…ね、家族になってくれる?(長らく保留になっていたプロポーズは今更だろうか。でも受けてもらえると信じているから、握ったままの手を引き寄せて、幾度抱きしめても足りない体躯を両の腕に閉じ込めたがる。ふたり分の鼓動が重なったならきっと、天の星の祝福だって再び降り注いでくれるはず。)[エピローグ]
(この世に不変や永遠はなく、人の口にも戸は立てられない。いつかいつかの遠い未来、円環をいただくかの国で、忌まわしき因習が廃れる可能性だって皆無ではないし。半分の姫と紫水晶の騎士が鳥に乗って、世界中を旅するおとぎ話が語り継がれる未来だってあるかもしれない。けれどそれは勇ましい冒険譚でも、死に急ぐ英雄譚でもなく、幸せに彩られた恋物語。めでたしめでたしで締めくくられる、そんなありふれたハッピーエンドだ。)[エピローグ]
いま考えていることは、きみの瞳が紫水晶にそっくりで、
とても綺麗だなということです。