終幕の半分


シリルとして彼女に生きて欲しいと願う気持ちに偽りは無く、外へ出たい、生きたいと彼女に口にして欲しくて。迷わずに真っ直ぐそう思う心が、彼女の気持ちを置き去りにしてしまっていました。他者を慮ると言うことを知らなかったが故の過ちではありますが、それ以降少しずつ、確実に歩み寄ることができたのは彼女が言葉を尽くしてくれたお陰です。
二人国を出ることで生存ED、とほっと一息ついたのも束の間。シリルPLとしてはより高い壁が待ち受けておりました。抱いている感情の名がわからない。彼女を生かしたい、そう願う心の理由。傍に在れれば満足で、彼女が幸せであれば良かった。答えが出ないまま時は過ぎ、通勤電車の中、休憩中、帰宅途中の電車の中、ずっと彼女の文章とシリルの心と向き合い続け、それでも答えは得られずに。ただの庇護欲、家族愛、同情、恋または愛。尖塔の内にて衝動的に彼女を抱きすくめたワンシーンがありましたが、あれもまた一つの分岐点かなと思います。書いては消し、書いては消しを数度繰り返した後、やはり衝動には抗えないとあのロールに至りました。あれと終章最後の彼女の言葉が無ければエピローグはもう少し変わったものになったのではないかな、と。本編最後の文章で得た答えをエピローグで伝えられたらと思いあのような形となりました。
お名前についても沢山悩み、沢山の言葉の意味を調べましたがしっくりくるものが無く。改めて二人分のプロフィールへと目を通した折、文字色の薔薇が共通点であることを思い出しました。ローズ。うん、可愛い。似合う。棘は無いけれど、綺麗に咲き誇る赤の薔薇のように。また、己が持つ赤を含めれば少しだけ独占欲も満たされるような気もして。片割れたる姉の象徴である薔薇と、その隣に在った霧がかった薔薇。二人ともを忘れることは無い、と言う意味で文字色のフォギーは敢えてそのままタイトルへ含めさせて頂きました。ローズちゃんPL様にはクリストローゼでアンサーを頂けたこと、とても嬉しく思っております。
三章以降、BGMは【月の記憶 - 月姫 -A piece of blue glass moon- Original Soundtrack】でした、とひっそり。お供は無糖の熱い紅茶です。
護りたいものを得て少しだけ弱くなり、強さを与えられ、果てに愛を知る物語でした。ある種人間味を帯びた、とも言えましょうか。八ペア、途中から七ペアが紡いだ物語の中でも少し毛色が異なるのかなとも思いますが、皆其々の個性が輝いていたお話だと感じております。本編期間中は自らの感情の整理に中々忙しく、他ペアを隅々まで追えておりませんので今後ゆっくりと追い掛けることでロスを昇華できれば、と。
最後になりましたが、ローズちゃん、ローズちゃんPL様には期間を通して大変お世話になりました。純真無垢の文字が似合いでありながら、大人びて笑顔で振る舞い続けるその姿を護りたいと思う心は今後も色褪せることはありません。多々お時間を割いて頂き、言葉を尽くしてくださり、誠にありがとうございました。幾度も引いた線を諦めず越えて来てくれたからこそ迎えられたエンディングです。願わくは、これからも幸せを祈ると共にPL様には時折思い出して頂けますとこれ以上の幸せはございません。シリルにとって光のような存在であるローズちゃんが、この先も笑顔でいられますように。違いますね、笑顔でいられるように頑張ります。シリルが。
瀬見様。素敵な舞台へとお迎え頂き、此度は本当にありがとうございました。このような時期と言う事もありぼんやりするような時間も増えておりましたが、設定を拝見したその時に抱いた参加したいと願う強い気持ちを受け入れて頂けたこと、心より感謝しております。期間中は充実した日々を過ごすことが出来、毎日があっという間に過ぎ去ってしまいました。一か月半と少しと言う決して短くは無い時間、最後までご一緒出来て光栄です。何度お伝えしても伝えきれるものではありませんが、本当にありがとうございました。
年の瀬、2022年も残り少なくなっております。時節柄冷え込みも激しく、流行り病も完全に収まったとは言えない日々が続きますが、皆様どうか健やかに、笑顔で過ごされますように。また、何処かでお会いできる機会がございましたら、その際もよろしくお願い致します。
2022.12.17 シリルPL
……戦うひとね。付き人というには空気が猛々しいわ。どうしてわたしの付き人に?誰かに意地悪されているの?(見据えられて笑みを深める。優雅、と呼ぶには柔和さを欠いた騎士の佇まいは相応しい場所が別にあると指し示すようだった。とはいえ、どうあっても傍に置くしかないのであれば、内も外もよくよく検分してみなければ。)[序章]
ね、そうでしょう。…あなたは何処へでも行けるのね。(屋根がないところへ出れば、眩しさに目を細めた。)[序章]
わたしを呼ぶのであればそう変わらないと思うけれど、あなたはいろいろと気になってしまうのね。ううん…知らない名で呼ばれても気付かないかもしれないし……あ、つかまってあげるわ!(これも名案が閃いたとばかりに顔を輝かせて手を差し伸べた。今、繋がれずとも「ねえ、あれはなに?」と案内役の袖を引っ張るのだから結果は変わらないだろうか。菓子の甘いかおりに誘われて、ディスプレイの美しさに目を丸め、頬を染めて高揚を露わにしていた娘も、土産物を選ぶときは真剣な面持ちで口を噤んだ。硬貨の持ち合わせがなく、指輪で賄おうとするのは余談として。)[序章]
ほら、見て。真っ赤でしょう?きれいだから、シリルを呼んだの。あなたとお揃いだわ。(丁寧な所作で騎士の規範をとるひとにひらひらと手を振って出迎え、曇りなく磨かれたガラスにぺたりと片手をつけて指し示した。この時節、燃えるような赤を来賓は褒め称えるらしい。豪奢な調度品が並ぶ部屋の残念なところを挙げるとするならば、バルコニーがないことだ。)[一章]
…――ありがとう。(短いセンテンスに想いを籠めた。それ以上、言葉にならなくて。承諾は予測していた。『お望みのままに。』『仰せのとおりに。』忠実な騎士らしい台詞が返ってくるものだと。それで良かった。わたしが“いつか”を望む日が来るのであれば、とやさしい夢を描いていたから。だから、否、けれど、予想を超えたやさしい言葉の連なりに、用意していた台詞を忘れた。与えられた肯定と承諾をうちがわで大切に包み込む。)[一章]
なにも、なにも、なにもなかった……わたしには…なにも、…そ、んなこと……しって、たのに……わかりたく、なかった。(言葉にしようとすると感情ばかりが先走って喉が戦慄く。名付けられるのは楽しみと喜びだけ。頭や目の奥が痺れるように熱いわけも、ぽろりと頬を伝ったものも、わからないまま。)[三章]
……お父さまは、愛情深いおかたよ。(顔を上げずとも刺々しい気配が伝わってくる。けれど、触れる手にはやさしさがあって、こみあげるものをのみ込んだ。欲しがってばかりの幼さを恥じた。これ以上彼の前で子どもみたいに泣いてしまいたくなかった。父が、妻たちを、子どもたちを、見つめる眼差しを知っている。公平かつ厳格な騎士王。平和を貴ぶ為政者。その、たった一つの瑕疵が“わたし”というだけ。遣わされた騎士が彼でなければ、ともしびは潰えていた。)[終章]
…シリル。(こころがいっぱいで、ざわめいて、もつれるように声まで震えてしまった。“ありがとう”も“ごめんなさい”も足りなくて、“喜び”も“哀しみ”も綯い交ぜになって、せめぎ合う真ん中に彼がいた。彼が手放したものを想う。彼が揺らした天秤のかたちを想う。この先どんな神秘を手に入れようと彼が差し出してくれたものには見合わないだろう。それでも、)[終章]
あなたがレティーシャと呼んでくれたとき、とても嬉しかった。けれど、名前のかたちはべつになんでもいいの。あなたが呼んでくれれば、「おい」でも「おまえ」でも振り向けるわ。……それでも、あなたに名前をつけてほしい。(姉へ差し出せなかった喜びを懐かしむように紐解いた。あの日には背を向けていたけれど、目の前にいるひとにゆるんだかおのまま微笑んで――込み上げる気配に彼から手を離した。)[終章]
………わたしが考えたのは…名前を付ければ愛着が湧くでしょう…?…だから、あなたがわたしを棄てるときに、あなたが一瞬でも、手を止めるものがほしかったの。[終章]
よかった。……あなたの恐怖を晴らすのは、わたしがいいなって。(我儘な秘密を息を吐くように告げた。細さも、長さも、厚さも、双子とは異なる手の容を見つめる。大切にしたいと想うけれど、姉へと向けるものとは重ならない。望みのないところへ手を伸ばすのは似ていたけれど、父へ求めたものとも違う。たくさんの言葉を尽くしたけれど、まだ足りない気がした。)[終章]
えっと、では、もっと?(笑みのかたちに目を奪われ、考える間もなく言葉を放っていた。語尾を上げて投げかける装いは表面上のもの。)[終章]
――シリル。見て!(晴れやかに呼びかけて、ながい夜の終わりを指差した。名前を呼べるだけで、胸が満ちる。目と目が合えば、溢れて、)大好き。(面映ゆくも、伝えられる喜びがまさった。自然と笑みがほころぶ。うつくしい空のうつろいを揃って見上げられることが嬉しかった。旅の途中ではあるけれど、朝を迎え、当たり前に彼と一日を始められることも。昨日までも“しあわせ”だったけれど、今日はもっと“しあわせ”だと感じることも。すべて真ん中に彼がいた。きっと、これからも。一つ一つを数えて、一日一日を重ねて、そうして、あなたと分かち合えますように。“いつか”の先まで。)[終章]
剣があればいいと少年の面影をみせたひとから剣を奪おうとは思わなかった。けれど、少女が無条件に賛同できた訳ではない。致し方ないと納得もできなかった。『その日のうちに帰ってくること、怪我は隠さないこと、場合によっては痛みだけでなく傷も委ねること。』と約束を求め、聞き入れられないのであれば一緒に行くと言って彼の剣を抱きしめて放さなかった。[エピローグ]
……わたしも、愛してる。(せっかく張ったものを彼は容易く越えた。同情でも誤解でも何でも良かった。彼が傍にいてくれるのであれば。好意を、大事にしてくれるこころを疑ったことはなかった。ただ、感情に名を付けるのが怖かった。“愛”はもっと美しいものだと思っていたから。とおく離れようとしあわせを祈り、願えるような純粋なものだとおもっていた。見返りを求めずに捧げるものだと。“恋”と名付けるのも不吉だった。裏切られ破れるものだと想っていた。盲目に破滅を迎えるものだと。それでも、彼が名を付けるのであれば、傍にいたいと望み、現在と未来を指輪で繋ぐものを愛と呼ぶのであれば、愛と呼ぶことを赦してもらえるのであれば、ずっと、伝えたかった。)[エピローグ]