終幕の半分


ファンタジー世界で双子に翻弄されつつシリアスがしたい!思う存分惑わされて葛藤したい!と、我ながら不純な動機で応募を決めた日から早二ヶ月……ラストアンケ-トが公開される頃にはもう少し経っているでしょうか。いち参加者として、こうして無事に終幕の挨拶まで漕ぎつけられたことを感慨深く思うと同時に、時間が経つにつれいよいよ終わってしまうんだという実感が込み上げて、一文打つたびに逐一しんみりしている状況です。そのぐらいキュクロスで過ごした期間は濃密で楽しくて、日常生活の中でもはんぶんのことばかり考えていた毎日でした。結果として円や双子といった関連ワードがやたら目につくようになってしまいましたが(笑)おかげで得られた学びも多く、皆様の活動から癒しとときめきを大量摂取させていただいたので、本当に充実した日々を過ごせていたように思います。素晴らしい舞台を作り上げてくださった瀬見様、ペア毎にまったく特色の異なる素敵な物語を見せていただいた皆様、そして何よりケヴィンのペアとして最後までお付き合いくださったアメリア様ならびにPL様に、まずは感謝の思いを伝えさせてください。ありがとうございました!
さて、そんなわけでアメリア様!エイミー様!アルフェッカ様! ……個人的に本編最大のやり残しポイントがエイミー様と愛称でお呼びできなかったことなので、この場ではそちらで呼ばせていただきたいなと前置きしつつ。
いやもう本当に我が姫には多大なる愛しかないのですが、いったい何から言い表せばこの気持ちを正確にお伝えできるのやら……。プロフィールを最初に拝見した段階では冒険好き&行動派の印象が強く、所謂お転婆系お姫様なのかな~と安易な勘違いをしていた過去の自分を殴りたい(?)程度には、エイミー様の多面的で複雑な内面が明かされてゆく様はまさしく圧巻の一言でした。ペアさん相手に単純な好きとか可愛いとかいい子ではなく、圧巻なんて感想が出てくるのが初めてのことで猶更戸惑っております。それもこれもエイミー様のお言葉や行動のひとつひとつの引力が半端なかったからで、序章での最初のお声がけを一番好きな台詞として挙げてしまうぐらい、PCPL共に初対面から完全に引き込まれてしまっていました。断言しましょう!一目惚れです!!言い方は悪いですが、所詮は設定上のものだった惚れ方が現実のものになるとは誰が予想したことか。今ではケヴィンのお相手はエイミー様以外に考えられませんし、エイミー様しか勝てないと確信しております。
しかし一方で、はんぶんで一番イチャイチャしつつ水面下で揉めていたのは自ペアだったのでは…?と少しばかり戦々恐々としていたりもしまして。私自身はフィクションの関係性は拗れていれば拗れているほどいい!と思ってしまう人間なので、大層おいしい立場として楽しませていただきましたが、エイミー様とPL様を悩ませてしまっていたなら申し訳なかったです。活動についても文字数や日程が限られる中、詰め込みすぎで説明不足やごちゃついたロールになってしまうことも多く……。そんな中でもこちらの要素を細やかに汲み上げてくださるうえ、コンスタントな活動ペースが崩れないPL様には尊敬しかありませんでした。画面越しにも感じられるたくさんのお心遣いに、少しでも報いたい一心でしたが、その辺いかがだったでしょうか。ケヴィンが忠誠心も好意もカンストしている割に自ら壁を作る面倒くさい騎士だったので、ふたりで幸せになれたのは本当に奇跡的な結末だったと思います。ここだけの話、終章のスレ立て時点で6割…いや7割ぐらいの確率で悲劇的な展開になると予想していたもので…。エイミー様がケヴィンと生きたいと願ってくださったからこそのハッピーエンドというのは、大げさではありません。ケヴィアメは愛に殉じたい者同士の物語と言い換えられる感がありましたが、お互いを抑止力として一生一緒に生きていきましょうね。これからもずっと大好きです!
せっかくなのでケヴィンについての話も少しだけさせていただきますと、そもそもキャラメイクの発端は「完璧を目指すぜんぜん完璧じゃない騎士」でした。はんぶんに於いては末姫サイドが半分のなりそこない。じゃあ騎士サイドは一個人として成立しているのだから、欠けたところのない完全体?…でもそれって人としてつまらないよなー…ということで思いついたのが、年下で入団一年未満で主君にデフォ惚れしている少年騎士でした。最初から未熟さがテーマみたいなものでしたので、本編の結果はエイミー様の影響ではなく、なるべくしてなった感があります。まっとうで真面目なように見せかけて、考え方が真円の理から外れているのも、殉死した先祖に憧れているという時点でお察し案件のつもりでした。とはいえ当初は初期のつんとした態度を貫く想定ではあったと申しますか……口調が変わった辺りPLですら違和感が凄かったので、前半と後半で別人じゃないかとか、プロフィール詐欺じゃないかとか高確率で思われていたのではないかな…と…(震え)プロフィールといえば紫水晶のむの字もないことから分かる通り、ケヴィンの人物像が完全に固まったのは前述のエイミー様の台詞がきっかけでした。ロール中であんなに輝石要素を取り入れておきながら、PLの中には紫水晶という発想は一切なかったもので……。そもそも本編の展開はお相手様に合わせますというノープランぶりだったので、お借りしたアイコンとペアさんのパワーというのは凄いなと改めて実感した次第です。
ついでに蛇足ながらエピローグ後の補足…というか手前勝手な妄想ですが、向こう数年もすればエイミー様の方が宝石商として大成しそう感がありまして(笑)危ないことはしないでほしいと反対された手前もありますし、ケヴィンは依頼を取る形での護衛業は縮小してエイミー様専属に戻りつつ、近所の子どもなんかに剣術を教えたりしてのんびり楽しく暮らしていくんじゃないかと思いました。おそらくエイミー様以外眼中にないべた惚れ具合はずっとでしょう。末永く幸せな夫婦として、悪い虫が介入する余地もないぐらいイチャついていればいいと思います。そんな感じ(?)でお願いします。
衝動の赴くまま書き連ねたら驚きのまとまりのなさになりました……。重ね重ねではありますが、関係各所への御礼を申し上げ筆を置かせていただこうかと存じます。大地の円環たるキュクロスでの日々と同じく、秋から冬へと季節が移ろい、年の瀬も間近に迫る昨今。皆様がいずれ迎えられる春の日があたたかさに満ち溢れたものであることをお祈りしつつ。またお会いする機会が巡ってくることを切に願っています。ケヴィン・アーデンPLでした。
(――本日の装いはクラシカルなロングドレス。悪目立ちする金髪はシニヨンバレッタで隠蔽し、瓶底めがねを装着すれば下級侍女の出来上がりである。今日も今日とて脱走劇に励むべく、姉に手を振り部屋を出た。人々は「半分の姫」に興味はあっても、ありふれた金髪碧眼の少女になど目もくれない。古びた魔導書を小脇に抱え、しおらしく回廊の端っこを歩む侍女に声を掛ける者などいなかった。)[序章]
末の姫であれば、冒険譚や英雄譚が好きですよ。いま考えていることは、きみの瞳が紫水晶にそっくりで、とても綺麗だなということです。[序章]
栗鼠は嵐を予知する力があるそうですよ。きみは嵐の騎士なのか、夕凪の騎士なのか、どちらなのでしょうね。(それは言外の「栗鼠を捕まえなさい」である。戯れの微笑みは、すっかり固まったままの栗鼠と彼とに向けられた。頃合いを見て「冗談ですよ」と笑うつもり。)[序章]
さみしいことを言うのですね。きみの言葉を借りるなら、不躾なきみの方が私は好きですよ。ケヴィン・アーデン。(口にして、美しい名だと思った。世界でただ一人、彼だけを表す音韻がすこしだけ羨ましい。アメリアは姉の名だ。母の胎で死した双子の妹に名などない。)[序章]
……――っふ、(淡い呼気がこぼれる。なけなしの気品で口許に手を添えたけれど、困惑の紫水晶を認めてしまえば、こみ上がる衝動を抑えられるはずもなかった。)あはは!いやあ、すごいな。嵐の騎士ならぬ、嵐の栗鼠の御登場とは。(からからと笑うさまは、礼儀作法を忘れた少女然としたものだ。微笑ましい一幕を前に、すっかり心を許したエイミーがまろび出たところで、はたと我に返る。ささやかな逡巡の果て。こほん。わざとらしく咳払い。)[序章]
そうだ。具体的な要望を決めましたよ、ケヴィン。私が冒険に出るとき、きみは私の仲間になってください。姫と騎士ではなく、ただの友人になるのです。(彼の右手を無遠慮に掬い取る。空いた手をその手の甲に乗せてから、紫水晶へと蒼を寄せた。)どうですか?きみも付き人として肝を冷やさずに済みますよ。(主君の所望する通りの騎士であれたなら。そう誓ってくれた少年と知ればこそ、ずずいと寄せた瞳は期待に煌めいている。わざわざ付き人としてのメリットを付け足した小賢しさはご愛敬だ。)[序章]
(並んだ影は美しい絵画のように、蒼を捕えて離さない。閉ざされた揺りかごの世界。願えば与えられる一方で、世界の裾野を広げることは決して許されなかった。初めての友人と立ち並んで、ふと、思い出したように足を止める。)そういえば、念のため。公の場では、傍に侍らず後ろで控えていてください。……きみの来歴に傷をつけたくはないのです。分かってくれますね。(ほんのすこし挟んだ逡巡は、みなまで伝える野暮を疎んだから。しかし、慎ましい彼が自罰的に捉えることを重く見た半分の姫は、あえて自らの立ち位置を晒した。鼻つまみ者の姫になど、そう関わるものではない。友人に任じた手前、筋の通らない話ではあるのだが。)[序章]
残念ながら、きみの献身は徒労に終わるでしょう。どれほど尽くしてくれようとも、私ではきみの誉れになれない。(それは建国の神話を諳んじるような、無感動な声だった。冒険を愛する一方で、とうに未来を諦めた運命の奴隷は、観念したように彼を見つめる。差し出した手の甲が、忠誠を問うた。)それでも、きみが許してくれるなら。……どうか私を守ってください。我が騎士、ケヴィン・アーデン。(私とは誰なのか。名無しの蒼が真実から目を逸らす。一時でいい。夢が見たい。縋るは、アメシストの酔夢。)[序章]
あとで一緒に見に行きませんか?たとえ待ちぼうけに終わったとしても、きみと夜空を眺める方がよっぽど楽しい。(平生よりも長い睫が期待に上向く。よそ行きの微笑みとはまるで異なる、戯れの光を宿らせた笑みは彼だけのものだ。ささやかな休息のひとときに甘えていた。)[一章]
(たとえ美辞麗句の一節であれ、甘美な酔夢に溺れていた。だから、つい境界線を見誤ったのだ。由緒正しき騎士の家、アーデン男爵の嫡男。それがアメリアの知る彼の全てで、父子の絆のかたちなど見当もつかなかった。強い語気にびくりと肩が跳ねる。決して悲観的な女ではない。それでも生まれながらの劣等は、耳慣れた断り文句を想起した。半分の姫と遊んではいけません。多くのきょうだいたちにそう言い聞かせる侍女の声を覚えている。)[一章]
ケヴィンの百面相は癖になるのですよ。つまるところ、きみが原動力です。(仲間ならではの苦言が微笑みを連れてくる。うたかたの笑声が喧噪に溶けきる前に、ふと口を噤んだ。)……きみが原動力。自分で言うのもなんですが、三文小説に出てきそうな口説き文句ではありませんか?どうです、ケヴィン。ときめきました?[一章]
(分家の長を指名するなり、冒険には不向きのヒールが幔幕の向こうに消える。きらびやかなボールルームから切り取られた薄闇の端で、未成年の主従だけが息をしていた。)はは。せっかくの過分も台無しですね。(逃げるように俯く。何から逃げているのかは分からなかった。傷ひとつない靴先がやけに皮肉めいていたから、それなりに笑えていたと思う。)すみません。きみに嘘をつかせました。(紫水晶の輝きを不必要に汚した気がして、ひどく後ろめたかった。長い息を吐いてから、目を閉じる。情けない。眉間の皺が苦悶を刻む。)……“私”は、何を弾くと?[一章]
ケヴィン。きみの言葉は魔法のようです。私は今、初めて半分という言葉を好ましく思えました。(半分。それは双子を忌避する王国において、成り損ないを表す侮蔑だ。たった四文字がもたらす屈辱など、彼に強いたくはない。それでも、一対として許してくれるのなら。誹りを甘受するのではなく、希望へと手を引いてくれるのなら。蒼は恋を知らない。しかし、それでも、もしかしたら。叶わないと知りながら夢を見て、永遠を祈りたくなる。こんな気持ちに名を付けるなら。繋いだ手を引き寄せる。ゆるく下方へと引っ張れば、紫水晶は蒼と同じ高さで見えるだろうか。ハラハラドキドキの道程で小傷を刻んだフレンチヒールの爪先は、彼だけを見つめていた。)ありがとう。頼りにしています、ケヴィン。(手を離す。彼の前髪をやわくかき分け、小さく背伸びした。その額へ捧げた感謝の口づけは、流星群の訪れとともに。)[一章]
不治の病に冒された少女を慰めるため、少女そっくりに作られた人形・コッペリア。ふれあいの中で心を宿し、少女の病を引き受け砂塵に帰したコッペリアは、どんな夢を見たのでしょうか。……本日こうして宴を開けますのも、王国の守護者たる皆々様のお力添えあってのこと。アメリア・キュクロスより、心よりの感謝を込めて。[一章]
じっとしていれば安全、ね。……まあ、私の返事を待たずに出た、ケヴィンの不始末でしょう。(理不尽な独白は、冒険譚の一頁に躍り出た騎士への手向け。実直な騎士の高評価が災いし、今この馬車には神出鬼没の末姫がひとりきり。扉一枚隔てた向こう側で、非日常がそこにあるというのなら。)驚きました。百聞は一見に如かず、思ったよりも小柄なのですね。(混沌の地に足を下ろした蒼は、紫水晶の数歩後ろで感嘆の息を漏らした。半分の姫の警護を任された一団への憐憫の情が飛竜への接近を押しとどめたけれど、かの小竜から身を守るだけの魔術は心得ているつもりであるし、何よりこの身は代えがある。人一倍の好奇心に自己への軽視も相俟って、幼子のきらめきの中に飛竜を映し込んでいた。)[二章]
(魔物と目が合う。まずいと思った。呪文を唱えるべく口を開いた。一方で、こうも思ったのだ。ああ、これで解放されるのかと。飛竜の苛烈な双眸に覚えがあった。鏡の中の自分だ。まだ理不尽な運命に怒りを燃やしていた頃の、幼い自分。そうだ。彼らは何も悪くない。人の規律によって葬られる彼らと禁忌の双子。そこに一体、何の違いがあるというのか。もう何も偽らず、欺かなくてよいのなら。これ以上、紫水晶に嘘を重ねずに済むのなら。怪物のもたらす終わりは、とても甘美なものに思えた。)[二章]
ご、ごめんなさい、ケヴィン。私、こんなつもりじゃ……(何となしに騎士の肩口へと伸びた手が、不自然に止まる。じわりじわりと藍を侵食していく黒に、半分の心までもが蝕まれるようだった。)[二章]
ふふっ。……さっきの今で、花って、きみ……いや、違うんです、からかうつもりはなくてですね……ちょ、ちょっと待ってください……(柔い呼気がこぼれる。小枝を彩る紫の献身があまりにも優しくて、いじらしくて、とめどない微笑みが滲んだ。勇猛果敢な騎士の姿は彼の確かな一面で、讃えられるべき美徳に違いない。しかし、半分の姫が望む半分の騎士は、野に咲く花を川辺で摘んできてくれる彼だった。閑話休題の咳払いを挟んでから、匂紫に鼻先を寄せる。)[二章]
(きっと彼は知らない。大切な騎士が損なわれるくらいなら、魔物など屠られて然るべきと断じる薄情を。甘えるように手を伸ばした。許されるなら、その手の甲へと指先が届くだろう。)今日は私のそばにいてくださいね。どこにも行ってはだめですよ。(それは昨日、騎士を姉に取られた妹のやきもちだったかもしれない。)[二章]
本当ですか?実は、二角獣の召喚術を試したいとずっと思っていたのです。文献によれば犬猫とそう変わらない大きさで、気性も穏やかと書いてありました。蛍石を食らうさまは壮観だそうですよ。どうでしょう?前向きに検討してくれますか?[二章]
(そわそわ。浮足立つ様子は町娘さながらで、職人たちが番狂わせの体験準備を急ぐ。好奇の目など些末なものだ。この研磨体験は騎士の許可のみならず、助力の保証付きなのだから。)エプロンですって。いよいよですよ、ケヴィン。楽しみですね。(手渡されたエプロンを騎士に見せびらかす。上機嫌に袖を通し、くるりと振り向いて蝶々結びをねだった。早速の力添えを求めながら、金糸の尾を手早く団子にまとめる。やる気十分とばかりに頷いて、研磨機の前へ腰を下ろした。)[二章]
なぜでしょう。私にも分からないのです。ただ聞いてみたくて。(結い上げていた団子を解く。ポニーテールに戻れば、昨日と今日のアメリア・キュクロスに境界はない。臆病者は目を逸らす。来たる宵闇に蒼を浸して、ぽつりと呟いた。)きみと分かち合いたかっただけかもしれません。秘密は息苦しいものですね、と。[二章]
うん。よく似合いますよ、ケヴィン。(悪戦苦闘の末、ようやく彼の襟元を紫水晶が飾る。左右に首を傾げて、その輝きを確認してから破顔した。)これはきみへの褒美です。全て職人に任せれば、よりよい品になっていたのでしょうが……今日の私から、今日のきみに贈りたかったのです。受け取ってくれますか?[二章]
でも、ひとつだけ訂正しなければなりません。私は他者を尊重しているのではなく、ケヴィン。きみを特別に尊重しているのですよ。(天空の蒼が、地の底の紫水晶へと落っこちる。それで滅ぶ世界ならいっそ滅んでしまえばいい。そう思うのに、紫水晶が謳う美しいままの蒼空でもいたいと願うのだから、人間とは実に罪深い生き物だ。複雑な表情をもの珍しげに見つめてから、曰くの手厳しい意見に仰々しく驚いてみせる。)[二章]
(清冽な青空へと、高らかな笑声が通る。なけなしの品性で口許を抑えたけれど、くすくす笑いは止まらない。だって、あまりにも滑稽だった。姉を呼びつけておきながら、姉妹の区別もつかない父王。自ら双子を生き永らえさせておきながら、妹を姉の「不便」と断じた父王。一人前という言葉の皮肉がおかしくて仕方なかった。予感はあった。唐突な騎士の登用。顔合わせの「アメリア」として指名された姉。政略結婚の是非を問うた乳母。種蒔きの結実は、きっとすぐそこなのだ。いつか別の道を歩む時が必ず来る。そう告げた澄まし顔の自分を思い出しては、くちびるが歪んだ。父が愛するのは姉ひとり。それが真実。期待などしていないつもりだった。それでも。)[三章]
ケヴィン。きみは赤らんだり、青くなったり、むっとしたり。とても忙しいですよね。その中でも、きみの笑った顔が、私は大好きでした。(すらすらと、流れるような告白に熱はない。過去形への意味もない。呪文を唱えながら、彼へと人差し指を振るう。術者以外には視認されない不可視の魔法だ。たかが数分の子ども騙しだけれど、それで十分だった。)でも、彼女の前では精悍な騎士でいた方がいいですよ。夢見がちなお姫様ですから。(小城の窓を指し示して、ひとふり。同じ軌道を辿っても、それが成すのは真逆の魔法。現れるのは、)リア![三章]
どこからどこまで。(復唱は無意識だ。つきりと、身勝手に痛む心に反吐が出る。そう仕向けたのは自分たちだ。姉の人生を間借りしてでも生きたいと、そう望んだのは自分だ。強く拳を握り込んで、教わった通りに微笑む。そうして理性を保とうと努めても、どうしても、どうしても悲しかった。愛した父にも、恋した騎士にも、誰にも見つけてもらえない自分が。)そんなに似ているのですね。私たちは。[三章]
とんでもない。きみは信じてくれただけでしょう。私たちのことも、この国のことも。[三章]
春の夜会?(面食らったように言葉を返す。惑うように蒼が揺れた。正解を探していたのだ。彼が、どちらの「アメリア」を望んでいるのか。どうすれば彼に報いられるのか。ただその一点のみで揺れ動いた不誠実な双眸が、逃げるように俯いた。)……あれは……私が、出席しました。……ごめんなさい。(彼の望む通り答えたかった。しかし、嘘を重ねる方が罪深く思えたから。自らを抱きかかえるように腕を組む。ぱらぱらと、雨粒が地面をまばらに染め始めていた。)[三章]
恋なんて、またすればいい。もっとじょうずに、幸せになればいい。……私の知らない、美しい場所で、美しい誰かと、幸せに……(麗しい未来を謡えば謡うほど、くしゃくしゃに心が潰れてゆく。なんて愚かな二律背反。彼の幸せを願っている。彼は正しい円環こそ相応しい。その気持ちに嘘偽りは一切ないのに、縋る指先に力が籠もる。)――…でも、本当は、(涙で濡れた睫が重い。紫水晶の告解が、やさしく空を落とす。鋭いばかりだったまなざしが、悲しみに染まった。迷子のように力なく、その憐れみを乞うように。慈しみを恋うように。その手のひらへと、頬をすり寄せた。)……どこにも、いかないでほしい……(いよいよ嗚咽は喉を支配して、上手く言葉にならなかった。もう、どうだってよかった。父のことも、姉のことも。今までのことも、これからのことも。ただ、今は。)わたしだけを……わた しだけを、ずっと……(どうか、さいごまで。続きは音にならず、柔い雨音に溶けた。うつくしい宝石を見つめる。時など経なくても、砂と土に埋もれなくても、もうとっくのとうに美しい紫水晶が蒼を酔わす。逃げてほしい。彼の未来を壊したくない。そう願っているのに。あまりの罪深さに恐怖しながら、ふるえるくちびるでささやいた。)……すきなんだ、きみが……。[三章]
おどろいたよ。想い人の、腕の中というのは……こんなにも、幸せなのだな……。(夜色の髪に頬を寄せる。名無しの痛みなど、分かち合わずともよいのに。幼子をあやすように、その頭を撫ぜた。いつか、彼がそうしてくれたように。)ケヴィン。……ケヴィン。きみの名前は、とてもきれいだ。どんな魔法より、私の心を、明るく照らしてくれる。(美しい詩をなぞる。彼がくれるすべてが慈雨だった。だから。)きみが、つけてくれたらいい。[三章]
ねえ、ケヴィン。目を閉じて。(そっと彼の肩を押して、その双眸をまっすぐに見つめたがる。双ツの真円を外しても、すぐそこにある紫水晶だけは滲まなかった。失った硝子板。授かった名前。再び舞台に上がった蒼い明星が、ふたりの息が混じる距離までくちびるを寄せる。そして、それきり。)……ふふ。ときめいた?(鼻先を交わらせて、悪戯に笑った。ふたりきりの世界を、あともうすこしだけ。)[三章]
困らせてもいいって、きみが言ったよ。ケヴィン。(さあ、悪戯はここまで。ふてくされた紫水晶を宥めようと開いた口は、終ぞ音を成さなかった。) 、?(柔いぬくもりは、涙の残り香をことごとく攫っていった。息を忘れて、瞬いて、瞬いて。そうして、ようやっと夢うつつのアルトが落ちる。)びっ くり、した。(頬に集まる熱が憎らしい。年上としてのささやかな矜持を守ろうと、押し返した肩口へと額を寄せた。彼の早鐘は、もうきっと笑えない。)[三章]
(姉も理解していたのだ。金風から冬うららに至る種蒔きを、その実りの先を、彼女もまた予見していた。妹と同じように。姉の口唇は怒りに戦慄いていたものだから、ああ先刻の彼もこの顔を見たのだろうかと、つまらない感傷が妹を後手に回した。初めて見る姉の激情は苛烈を極め、王からの手紙を破り捨てるや否や、その残骸すら炎の魔法で燃やし尽くす始末。挙句の果て、茫然自失の乳母すら詰るのだから手に負えない。世紀末の混沌から逃げ出したい衝動に駆られながら、なんとか場を収めた結果が今である。)[四章]
私が迎える結末を、おまえだけは哀れんで。どんなに救われない終わりでも、おまえだけは見届けて。その痛みを、一生忘れないで。[四章]
本当は、とっておきの悪戯を用意してたんだ。私が「どちら」か分かりますか?って。(甘やかされた指先が、その輪郭をなぞりたがる。自分自身をひたすらに律し、剣を取る勇ましい少年。しかし、その心は誰よりも柔いと知っている。)でも、きみは呼んでくれた。尋ねる間もなく、私の名前を呼んでくれたんだ。それだけで、もう十分。(もう涙は滲まない。ふたりきりの夜の底、孤独さえもが幸せだった。)ごめんな、ケヴィン。私ばっかり幸せだ。[終章]
生きたいよ。死にたくない。ケヴィンと一緒に生きて、生きて……飽きるくらい、きみに呼ばれていたいよ。私の名前を。[終章]
――ッやめろ!!(喉を灼くような絶叫だった。体が震える。これが憤りだと気づいたのは、小瓶を持つ手を払いのけてからだ。愛しい紫水晶といえども、今ばかりは憎くて憎くてしょうがない。怒りで白んだ指先を揃えて、その頬を叩くべく振りかぶる。その行方がどうであれ、彼に注がれるのは獣じみた睥睨だ。)ふざけるな。おまえが死んだら、(続けるべき言葉があった。伝えたい想いもあった。しかし、口にして初めて、そのおぞましさに恐怖した。引き攣る喉元。まぶたに集まる熱。ああ、泣きたくなんてないのに。あふれる涙も、たがの外れた激情も、何もかも止まらない。)[終章]
もういい。全部言ってやる。おまえは私のものだ。私以外を愛するなんて許さない。[終章]
……さ、っきの言葉、そのまま返す。ケヴィンの、分からず屋。(嗚咽混じりの意趣返しは、きちんと棘を含めていただろうか。甘やかしの指先が涙を拭うせいで、あふれる愛しさが隠せない。もうやめてほしかった。泣いて喚いて、詰って打って。醜いばかりの不信を晒してもなお、こんなにも優しく見つめてくれるひとを他に知らない。信じてしまいそうになる。この恋は、許されてもいいのかもしれないと。)[終章]
……――っふ、(淡い呼気は、序章とそっくりの。)あはは。プロポーズみたいだ。(笑声がまろぶ。未来なら疑えた。しかし、今ここで説かれる愛を疑うすべなんてどこにもない。呪いを雪いだ涙が頬を伝う。真摯な指先を濡らしてしまうそれが、今日の彼にとっては穢れではないのだと信じてみよう。大丈夫。一日ずつなら、怖くない。)いいよ。私は、ケヴィンのすべてがほしい。だから、私のこれからを、きみにあげる。[終章]
………その。怒らないで聞いてほしいんだが、私はまだ、なんというか……ケヴィンの手を煩わせてまで、と思わずには、いられないというか……。(しどろもどろ。分からず屋の紫水晶を起こさないように、慎重に言葉を探す。)いや、違うんだ。何が言いたいかというと、勇気を出そうとしている。ので、手を、握ってほしい。……いや、握る。(一方的な語らいのもと、一方的に手を握る。みっともなく震える指先が疎ましい。彼がくれたぬくもりを想い、命を乞う罪深さを振り切って、ゆっくりと口を開いた。今更かもしれないけれど、)お願いだ。私を助けてほしい。……幸せになりたいんだ。きみと一緒に。[終章]
騒ぎになりそうな手段がいい![終章]
ケヴィン!私は今、とてもわくわくしている!(もはや意向ではなく感想である。いそいそと身を寄せて、魔導書を覗き込もう。結い上げた金糸が彼をくすぐるかもしれないけれど、冒険に目が眩んだ明星に一切の配慮はない。)きみが挙げた中で選ぶならグリフォンかな。一番かっこいい。個人的に喚んでみたいのはシムルグだが、ふたりでは難しいかな?美しい羽毛は治癒の力もあるそうだから、心強いと思うんだ。いや、せっかくならドラゴンがいいかもしれない。うーん、こうなってくると天馬も捨てがたいな。どうしようかな……(怒涛の意見陳述の末、長考。千載一遇の好機を逃すまいと、かつてない熱情を魔導書へと注いでいた。)[終章]
ごめん。さっき、毒でもくれるのかと言いそうになった。何とか堪えたけど、今後、うっかり口が滑ることがあるかもしれない。(いつかと同じように、紫水晶をまっすぐに見据える。きりりと口の端を引き結んだ。)そのときは心置きなく叱ってくれ。私も好きになりたいんだ。ケヴィンが好いてくれる、私自身のこと。(無謀だと嗤う自分もいる。それでも、彼と一緒なら――真面目な意思表明に「あっ」と素っ頓狂な声が混ざる。無言のまま外套のポケットを叩いて、暫しの沈黙。おずおずと口を開いた。)……ここに忘れ薬がある。きみにあげようと思ってた。今から捨てる。(後ろめたさがありありと滲む早口であった。暖炉へと小瓶へと放り投げ、そそくさとチョークを手に取る。気を取り直してとばかりに咳払い。)[終章]
きみのあれがなければ、私は今ごろ血の花だ。私たちはあの小瓶に命を救われたのかもしれない。……という結びでどうだろう?(愛した父に死を願われ、愛した騎士すら奪われようとした現実。どうせ横たわる悲劇なら、せめて優しい餞を贈ろう。父に愛されてみたかった。しかし父は父である前に、真円に相応しい完璧な王だった。ただそれだけのことなのだから。)[終章]
ねえ、ケヴィン。きみを愛してる。だから明日も、(ここは雪と闇に閉ざされた冷たい尖塔。祝福の星は流れず、からっぽの鐘楼は何をも寿がない。それでも愛を説こう。明星に恋した紫水晶の新たなあやまちが、未来永劫正されないように。)私だけを愛していてね。[終章]
(ロマネサイトの瑞夢。)[エピローグ]
……おはよう、ケヴィン……。(かんむりの中央で輝く宝石とは程遠い、油断しきりの寝ぼけた声が愛しい音韻をなぞる。甘やかしの少年騎士、もとい甘やかしの恋人との出会いから三度目の秋。夜色の髪に触れたまま一日を終えて、一日のはじまりに紫水晶を映し出す毎日は嘘みたいに穏やかで、時たま無性に泣きたくなる。金糸を撫ぜやる手のひらを手繰り寄せ、その存在を確かめるように頬を寄せよう。私の幸い。私のすべて。どれだけ甘やかされても未来は怖いままだから、今朝の約束が果たされてようやく安堵する。)[エピローグ]
でも、そろそろ心配しなくてもいいのかな。自信がなくてもいいだなんて、きみ、もしかして私にべた惚れなの?[エピローグ]
(衣擦れの音がよく響く、彼だけがくれる窮屈であたたかい世界。ここでアルフェッカは生まれた。母を知らず、父に捨てられ、紫水晶に家族を捨てさせた蒼はやはり不純物でしかないけれど、紫水晶が共生を許してくれるというのなら。紫水晶の中で輝くさやけき明星として、半分でも真円でもない、自分たちだけの家族のかたちを作っていけたら。重なる鼓動。降り注ぐ星々。天の祝福を目に焼き付けたいのに、涙で滲む世界では彼のぬくもりしか分からない。)ケヴィン。生まれてきてくれて、私を見つけてくれてありがとう。(あの春の宵、紫水晶のあやまちに心からの感謝を捧げよう。彼が見つけてくれなければ、このありふれたハッピーエンドは迎えられなかった。幸福の証たるかんむり宝石が静かに頬を伝う。ああ、)――生まれてきてよかった。愛してる、ケヴィン。[エピローグ]
(もしもこの水底に、時渡りの人魚がいるのなら。理不尽な運命に怒り、やがて諦めた名無しの少女へと教えてあげてほしい。世界は広いこと。双ツ首の呪いは解けること。いつかもらえる名前が、とてもとても美しいこと。そして、とびきりの幸せに彩られた恋物語のことを。)[エピローグ]
その間に僕が心変わりしなかったら、また次の一日も一緒に生きて。