Anastasia Kyklos
アナスタシア・キュクロス
アナスタシア・キュクロス


- 年齢
- 17歳
- 身長
- 148cm
- イメージカラー
- moss green
- 騎士
- エリック
アナスタシアのことを問えば「優しい方」という声が多く返ってくる一方、「お心が不安定」とも囁かれる。口さがない者ならば癇癪持ちと称し、「逆鱗に触れた使用人を辞職に追い込んだ」という噂話を教えてくれるだろう。悪評が立つ原因は、二人の人間が一人として生きている影響だけではなく、凡そはキュクロス王家の真の末娘にある。日頃明るくにこやかに笑い、使用人にも分け隔てなく接する振る舞いは、片割れの姉を模倣しているだけの外ヅラだ。全ては双子の真相を隠すため。けれど演じ切るだけの器量はなく、被った猫が剥がれれば怒りっぽく気難しい性格が顔を出す。双子として生まれ落ちたことに強烈な負い目と劣等感を抱き、姉一人であれば“半分”とは称されないであろう優秀さが妬ましく、にも拘わらず「ふたりで一人」と手を差し伸べてくる善意も憎くて仕方がない。鬱屈とした感情のままに憎まれ口を叩き、八つ当たりを繰り返せば、出生の秘密を知る使用人にすら距離を置かれる始末。人前に出る機会は姉に任せ、自室に籠るかひと気のない中庭で過ごす日々。好き好んで一人でいられたら良いのに、どうしようもなく孤独だった。本当は仲良くしたいのだと、口にできる素直さがあれば、少しは生きやすい人生だったのだろうか。双子の片割れと思わないで。“半分”なんかじゃない。ただただ一人の人間として認めてほしい。そんな長年積もらせた願いが叶う日を、諦観と共に待ち望んでいた。
ある日のことa:身に覚えのない思い出について話を振られた
は?一体なんのこと?(身に覚えのない話を振られて、アナスタシアが咄嗟に放った台詞は、“心優しいお姫様”にはとても似つかわしくないものであっただろう。勢いそのままに振り向けば目を丸くする使用人の姿を認めて、やってしまったと此方も目を見開いた。――時を遡ること数刻前。この日は随分と冷え込んで、あたたかな暖炉に身を寄せていた。暇潰しのお供には刺繍を選び、針を動かす手つきは拙くも無心で刺していく。そうして黙々と、集中しすぎたのがよくなかった。「あら、刺繍!」パチパチと薪が爆ぜる音で満たされた静寂な空間に、闖入者がやってくる。「姫様は昔からお得意でしたものね。またどなたかにプレゼントされるのですか?」なんて、地雷を踏みながら。刺繍は不得意だし、贈り物にするなんて以ての外。分かってて言っているのか、嫌味か何かと早合点し、冒頭の台詞へと繋がる。)やだごめんなさい、寝起きみたいな声が出ちゃった。きっと、長い時間火にあたっていたせいね。今はお仕事中?邪魔になってないかしら。(勝手知ったる使用人ではないことに気付き、吊り上げかけた眉は方向修正。咳払いをして、にっこりと表情を取り繕ってみせれば誤魔化されてくれるだろうか。自室にいるつもりで寛いでいたが、ここは応接室。寒さに託けてくっついてくる片割れが鬱陶しくて、逃げ込んだ先だった。見知らぬ人間が入ってくるのも当然だ。退散しようかと腰を浮かせたものの、お茶を淹れてくれると言うから、人のいい笑顔に釣られて結局元の位置へと納まってしまった。)――刺繍は、そうね。乳母が得意で教えてくれたの。もう辞めてしまったのだけど、何でも縫えて、すごい人だったわ。(いつもより渋い紅茶をちびちびと啜る。強引に質問を流したというのに、結局同じ話題に戻るのだから、随分と関心があるらしい。「刺繍でも始めたいの?」尋ねてみれば、彼女は首を横に振る。「姫様、」大切な思い出を懐かしむように、柔らかな声で告げるそれに、アナスタシアの表情は強張った。「私めにハンカチを贈っていただいたことを覚えておいでですか。」訊かなければ良かった。私に言わないで、人違いだと返せたら、どれだけ良かったか。答えあぐねている間にも、貰ったというハンカチーフをご丁寧にも広げて見せてくれる。季節の花をあしらった、繊細で美しい刺繍。「今も使ってくれてるのね。ありがとう、嬉しいわ。」なんて姉ならば微笑むのだろう。けれど代わりに礼を言うのも、喜んでみせるのも真っ平御免だ。)ご馳走様。ところでこの部屋って、すぐにでも使うのかしら。作業に集中したいから、掃除なら後回しにして欲しいのだけれど。(ガチャン。飲み干したティーカップはそっと置いた筈なのに、耳障りな音を立てる。はっと夢から覚めたように頭を下げる使用人を、アナスタシアは眉根を寄せて見ることしかできなかった。もういいから、と部屋から追い立て溜め息を一つ。先程まで針を通していた布切れを摘まみ上げれば、なんとも見窄らしく惨めで、暖炉の中へと放り捨てる。あっという間に火にのまれゆく様を眺めながら、全てなかったことになれば良いのになと、ぼんやりと思った。)
強くて、賢くて、王国に仕える誇り高き騎士様なら、
そんなことで思い悩んだりはしないのかしら。
誰かのために生きるだとか、国のためにだとか、私なら絶対嫌なんだけれど。