Arsinoe Eos Kyklos
アルシノエ・エオス・キュクロス
アルシノエ・エオス・キュクロス


- 年齢
- 17歳
- 身長
- 161cm
- イメージカラー
- heliotrope
- 騎士
- リューヌ
20年弱前、王が異国より連れ帰った歌姫を愛妾とした。彼女から産まれたのがアルシノエである。二人のアルシノエ、表舞台に立つのは殆ど姉の方だ。理由は簡単。先に父を呼んだから、先に文字を読んだから、先に詩を詠んだから。姉のアルシノエは全てにおいて優秀だった、ただ一つを除いて。それは歌。姉が公の場に出るようになって数年が経ち、歌声が出せないことに気付く。天へ昇り、風を率い、光を集め、大地へと捧ぐ伸びやかな歌声は妹のアルシノエだけが得た祝福であった。誤魔化しようのない明確な違いから王は二人に人前で歌うことを禁じた。以来アルシノエは歌を失くした娘であるとも囁かれる。王が愛した歌を失くした歌姫の娘に何の取り柄があろうとも。されどアルシノエは末娘として健やかに育つ。歌を忘れた場所に多くの教養を詰め、末娘は胎の中で双子であったということからの不安定な部分を時折覗かせるも大凡出来の良い姫と評されていた。しかし一方で歌を持ち表に殆ど出ることのない妹のアルシノエを王は自然と甘やかし、兄や姉と並び立つ思慮深く努力家な姉と王の鳥籠の中で無邪気に駆け回る妹という構図がいつしか出来上がった。それでも双子の仲は悪くなく、寧ろ仲が良い。姉は妹を守らねばと思っていたし、妹は外の話を聞かせてくれる姉が大好きだった。二人を知る誰もが思っただろう、妹が歌を手放してくれれば話は簡単であるのにと。
ある日のことa:身に覚えのない思い出について話を振られた
(玻璃の天井から降る光は柔らかい。梢の影絵をそこかしこに描いていた。王妃主催の昼下がりのティーパーティーには側室や娘らが新しいドレスを纏い、一等のお気に入りのメイドを連れて集う。所謂身内という括りの中であれど王城の中で一二を争う華やかな場であった。各国から取り寄せたとびきりの茶葉と茶菓子を囲んで交わされる砂糖を塗した噂話にはどれもスパイスが潜んでいる。社交界でよく耳にする噂話を交わす口元は扇の向こうで別の何かを喋っている。そんな艶やかな色で飾られた唇のひとつが末の姫アルシノエに柔らかな矛先を向けた。出された茶菓子に添えられていた甘酸っぱい果実を食べて「美味しいです」と末の姫が感想を述べたところであった。ふうわりと絹のように「先月のお茶会で貴女その果実を好まないと言っていたと私は記憶しているのだけど?」だなんて被せられた言葉。柔らかに編まれた言葉越しにくすくすと笑う声があちらからこちらから忍び寄る。さてその末の姫はといえばこれが戯れの類であることは理解していてすっかり慣れてしまっているものだから、被せられた言葉をそっと除けて微笑みを浮かべるのだった。)御姉様。私のことを覚えていてくださったのですね。(花が咲くように微笑んで、艶やかな唇の主を見詰める。この類の余興は幾人か存在する側室が産んだ姉妹達の派閥争いのようなものであった。そして王と王妃に“特別扱い”されているという、実母も姉妹もいない、出来の良い末の姫への風当たりは時折冷たい。)そう。私苦手だったの。でも不思議。御姉様が御用意してくださったからかしら。今日はとっても美味しく感じます。(もう一つの果実を姉姫の前で口に含んだ。二人のアルシノエ、くだんの果実が苦手なのは姉で、此度茶会に出席して果実を喜んで食んでいるのは妹であった。姉はこの席が苦手だ。多くの姉姫達が自分をおもちゃにしてくるのが気に食わないのだろう。しかし妹は意外にもこのような場が平気であるどころか愉快であったから、普段は姉が殆ど外に出るもののこの場に関しては度々出席していた。淑女達のお喋りは愉快。それから淑女達の着飾る様は美しく、見ていてとても幸せになれた。)――あら。 御姉様、そのブローチはフィブラを模したもの? その紋様は西方の……(「噂されている佳き方の贈り物でしょう?」と皆まで言わずともブローチに向けて他の姉姫達の視線とそれから花弁が一気に散るようなお喋りが集まった。佳い人の話を振られてまんざらでもない姉姫を置いておいて、すっかり蚊帳の外になった末の姫は残されていた果実をまたひとつ口に含んだ。ぷつりと皮が破れて広がる芳香は小さな頃から好きなもの。姉のアルシノエが残したものをいつも食べていた。)いつだってとっても美味しいわ。(末の姫は満足げに微笑んで、皿を空っぽにしてはお代わりはないの?と給仕人に尋ねる始末。この果実が好きだと皆に思われても姉のアルシノエが困ることはないだろう。季節は移ろう。この果実の旬ももう終いだ。玻璃の向こう、光が描く遥か遠い天では末娘の知らぬ花の香を乗せた風が果実の季節の手を引いていく。)
広い広い草原を見てみたいの。
それから深い深い海を見てみたいの。
どんな音が聞こえるのかしら。ね、知っている?