Bertram Kai Stanberg
バートラム・カイ・スタンバーグ
バートラム・カイ・スタンバーグ


- 年齢
- 18歳
- 身長
- 184cm
- イメージカラー
- フレイムレッド
- 姫
- ロクサーヌ
スタンバーグ侯爵領は国境に触れる鉱山地域だ。古くには採掘権を諍い、山向こうの隣国と渡り合うために要された第一は武力であったけれど、情勢が安定して以来有るべき能力は調和調停を重んじる商談となっている。そうした意味で当代嫡子は責務と人格が十分に見合う存在であり――粗暴と呼ばれる次男坊にはそぐわなかった。生来に身体能力と魔法素養に恵まれた次男、バートラム・カイ・スタンバーグはこの事実を早々に自覚した。自分に領地経営は向かない。なればと周囲が勝手に兄弟対立を持ち上げるより先、16歳になってすぐに王都の騎士団に転がり込んだのだ。後継争いに負けて家名から追い出されたなんて取り沙汰も、数年経てば笑い話。言葉繰りや振る舞いが居丈高な不遜であれ、火の気を纏う魔法剣を扱い、魔物相手に怯まぬ有り様は一定の評価を得ていると謂える。剣に魔力を籠めるとき、焔色の長い髪にまだらの濃淡が走るのだと、今はそうした噂のほうが名に絡んでいた。王城併設の寮舎暮らしにも慣れ、勤めの無い日には出自の垣根を見ずに城下町をぶらついている。身分が上の相手にへつらうのは相変わらず不得意だったが、下の者と対等に付き合うのは好んでいた。捕らわれるものの無さそうな、気儘な無頼漢めく笑い方をしながら、誰しもに逃れられないものがあることは知っている。きっとそれを燃やし尽くせるほどの何かを探していた。
ある日のことb:王室の政略結婚について意見を求められた
――王室の結婚式? 出てぇの?(眉を上げて振り返った先、同僚が口籠ったのを見て男は思わず笑った。戦の無いこのご時世、なるほど一番華のある職務は挙式の警備かも知れない。厳粛とは遠い長閑な休日、城下町の大通りから一本離れた小路で、煉瓦色の建物の隙間に差し込む午後の陽光と冷え始めの風は穏やかなものだった。騎士団の隊服を纏わぬ男の二人連れは露店の串焼きを手に歩いている。「末の姫様もさすがにそろそろだと思わないか? あるなら政略的な、」と横合いから続く言葉を聞きながら塩の効いた肉を口に運び、)さてねえ……そういや末の姫さんもじきに成年だっけか。もうしたんだっけ?(咀嚼する間で言葉を区切って、口内が空になってからわざとらしく語尾を上げると、来年だよと常識としての突っ込みが入った。)ハハ、そういう七面倒くさいこと覚えらんねえ性質なんだよ。ま、確かにいい加減婚約の一つや二つ発表されてもおかしかねぇよな。向き不向きを措いといて、王室の姫様がいつまでもご自身の居城で寛いでいらっしゃるわけにもいかねえだろうし……お人柄の噂は兼ねがね聞き及ぶが、どうにかこうにか山ほど付き人でも添えて送り出すことになるんだろうなァ。(笑み型の唇が紡ぐ言葉は、男自身でも存外に抑揚の薄いものになった。細く吐き出す息と共に、視線の向く先もやや下がる。思惟に耽るような素振りではなかったと思うけれど、連れ立つ同僚もそのまま口を噤んだものだから、男はゆっくりそちらを向いた。目を眇めて無言に意を問うと、「お前はそういうお役目はバカらしいって言うかと思ってた」なんて妙な感心が寄越されてしまった。相手は市井の出だ。ふは、とまたつい笑う。)なんだよ嫌味のつもり? どーせこちとらスタンバーグの放蕩息子だわ。此処じゃ王城直下の騎士団って箔があるんで見逃されてるだけで、もっとテキトーに野に下ろうもんなら首根っこ掴まって連れ戻されるよ。オレも。(出自に気兼ねない温度の遣り取りは、そこで不意に男の腕が遮る。串焼きを持っていない側の手をおもむろに伸べて相手の首を絡め引き寄せた。漫然と歩んでいた小路の先、ささやかに広げられた香炉の露店を顎でしゃくって、)そんなことより、オマエの目当てのお姫ぃさんはあれじゃないか。ほらガンバレ、中途半端すんなよ。(座す店員のほうを示して声を低めると、腕に判りやすく動揺を感じる。何せ休日を潰して付き合ってやるほどの用事だ、結婚なんて雑談に出したのも意識がそこにあるからだろう。突き飛ばすように背中を押しやってから、自身は足を止めて冷めた串焼きをまた口に運んだ。――素養や人格がどうあろうが、生まれ持った定めは定めだ。中途半端、と自分の言葉をなぞるように無言でもう一度唇を動かして、半端な立ち位置の男はふと王城のほうを仰ぐ。仰いでそっと双眸を細めた。そこに住まう人の顔など見えはしないし、降り注ぐ定めのほうも、まだ当事者たちを知らない。)
ただ偶に――ごく偶ァに、面倒くせえなと思っちまうことがあるくらいだな。
いかがですかねお姫さん、
あんたを取り巻く定めってもんは、全部を懸ける価値がありそうか?