Roxanne Kyklos
ロクサーヌ・キュクロス
ロクサーヌ・キュクロス


- 年齢
- 17歳
- 身長
- 146cm
- イメージカラー
- ドリクブルー
- 騎士
- バートラム
この世界に双つのいのちに分かたれて生まれ落ちたロクサーヌの片割れ。姉が産声を上げた13分後、その誕生を心待ちにしていた数と喪失を希求していた数とどちらが多かったのか。双つのいのちは母のたましいをそれぞれはんぶんに喰らって成長を遂げてゆく。平均よりも小さい体躯も、細い手足も、猫毛のような柔い髪も、まるで鏡合わせのようにそっくりに。人はみな、ロクサーヌをはんぶんと云う。やさしい姉もそう自嘲する。けれど妹はそうは思わない。ロクサーヌをふたりでひとつにしたのはあくまでこの世界の理で、姉と妹はちがうにんげんだと知っている。よって姉の機嫌や体調によって妹も表のロクサーヌとなるけれど、基本的に人前にすがたをさらすのは本来ひとりの筈だった姉のロクサーヌだ。妹は影になりたかった。姉の都合の良い傀儡になりたかった。妹は姉に依存している。姉は妹が生まれる前の世界でも生きていられた。しかし妹は姉の生きた世界でしか呼吸をしたことがない。姉の存在なくしていのちを繋いでいられない。妹は知っている。いつまでもロクサーヌがふたりではいられないこと。姉妹であることを語れないこと。にんげんなんて、ほんとうは生まれた時から死ぬ時までひとりぽっちのいきものであること。けれど妹には生まれた時に姉が居た。それが妹の人生最良の瞬間でロクサーヌのおわりのはじまりだった。
ある日のことb:王室の政略結婚について意見を求められた
違う。私のことは名前ではなく姫と呼ぶようにと前にも云った筈ですが。(妹は随分と背の高い従者を見上げる。妹からすれば大抵の相手に対し上目を使うことになり、それは長い前髪とかぶさる睫毛によって、まるで睨めつけるような表情と重なっただろう。慌てふためき、叫ぶように謝罪をする従者に微かな首肯のみでいらえた。ロクサーヌの名はあくまで姉のものだ。妹にとっては敬称での呼称の方がよっぽど落ち着いていられた。)以後気をつけて貰えれば結構です。それよりも、何用ですか。何が用があってわたしを引き止めたのでは?(姉はもっとやさしい言葉のなぞりかたをする。妹とて姉の評判を落とすような真似はしたくない。けれど朝方、微熱と倦怠感を抱えた異変を嗅ぎつけ、半ば無理矢理に寝台に寝かしつけてきた姉の容態が気になって仕方がなかった。使用人に水と薬の用意を頼みたかっただけなのに、斯様な余計な邪魔を寄せ付ける予定ではなかった。)……結婚?わたしが?(まことしやか、なんてものでない。にんげんは空想や妄想が大好物だ。忌み子として扱われるロクサーヌは垂涎の馳走になるだろう。特段興味はなかったが、相対する従者の彼は外交の責を負わされているらしい。婚姻の契りを交わすかも判らない相手に失礼のないよう、せめてもの配慮として当の本人の意見を先に聴取しておくつもりだったか。瞬時に巡った思考を弾かせ、大仰に溜息を落とせば、止めていた歩様を再開させた。)その話はまたの機会に。今は話したくありません。もう下がって。シビル!(意見を求めるのならば妹ではなく姉にすべきだ。妹は誰とも婚姻を結ばない。丁度回廊の向こうに見えた人影の名を呼びつけ、逸る心の儘に駆ければ姉と同じ猫に似た細い毛が光に散った。)いつもの薬を直ぐ部屋へ。それとつまめるような甘いお菓子も。(恐らく今日のロクサーヌは気性の荒い姫だとでも騒がれているだろう。けれど妹にとってみれば些末なことだった。もう17年も同じような生活をしている。すこやかな眠りを妨げることのないよう、足音をしのばせ、ふたりに宛がわれた安寧の鳥籠の戸を開く。)起きていたの、おねえさま。お加減は?昨夜、遅くまで起きていた所為よ。シビルに薬とお菓子を頼んであるから。ゆっくりおやすみ、私の愛しいロクサーヌ。アイリスがやさしい夢の世界へいざなってくれるわ。(床に膝をつき寝台に飛びつくような無様な真似は姉の前でしか許されない。羽を休めるうつくしい小鳥の髪を撫で、妹は囀った。姉とまくらをともにしながら身体を丸めて眠る一体の魔獣が、呼名に応えるように尻尾を揺する。薄く開く夜明けの色をしたひとみにヴェールを覆うように、双つのまぶたにくちづけ、そのすこやかな寝息を確かめる。 ――姉の安寧をおびやかす存在は許さない。たとえそれが、 であったとしても。)
あなたもそうお思いになる?そうだとしたら、あなたとは相容れません。
わたしたちはふたりでひとつ。けれど欠けたからってはんぶんにはならない。
ひとりだってこの世界には十分。……ねえ、私の云うことは間違っている?