Gilberto Danieli
ジルベルト・ダニエリ
年齢
18歳
身長
183cm
イメージカラー
フォイーユモルト
レイチェル
ひとが、生まれながらに完全だなんて……おごった考えではないですか。
誰しもが、どこかしらを欠いて生まれ……なにをうしなったのか思い出せずに、
だから赤子は、かなしんで泣くのだと……。誰に伝え聞いたのだったか、
……俺も、もう忘れてしまいましたが……。
性格備考
代々続く紡績業で資産を築きあげ、貴族に劣らぬ財を成す商家の三男坊は、なんとも影の薄い男である。見るからに商いの才はない。人の上に立つなどもってのほか。ふらふらと時に身をまかせるまま十六を過ぎ、詩人になりたい、だめならさすらいの旅人に、とぼんやり夢見ていたところ、業を煮やした当主に首根っこをひっ掴まれ、有無を言わさず王国騎士団へと放り込まれた。ひと月ともたずに送り返されるのでは、という周囲の懸念をよそに、思わぬ気概を見せて早二年。存外うまくやれている、と送った便りは男のひととなりをよく知る家族を仰天させたが、いかんせん辛気くさい性根を隠せぬその文面を、心から信じた者はひとりとしていなかったろう。事実、家柄による面倒な序列を差し引いても、意思疎通力に難のあるこの男が、同輩たちの輪にうまく溶け込めているとは言いがたい。不明瞭に訥々とつむぐ声は弦の錆びついた楽器さながら、人を遠のかせる鬱々とした佇まいは亡霊のごとし――と陰口を叩かれる程度の存在感すら持ち合わせなかったのは、はたして幸か不幸か。騎士とは名ばかりの、未熟な精神が根を張りめぐらせる下に、年相応の熱情がはぐくまれていることをいまだ誰も知らない。おそらくは、当の本人でさえも。
ある日のこと
c:フリーシチュエーション
(振り下ろした両手剣の刃が、雄鶏の脳天を打ち割った。腕にひと抱えもあるかと思われる、巨大な頭である。若い木々をなぎ倒しながら転がる胴は鱗に覆われ、下肢には蛇の尾。大きく開いた嘴からは体液とも胃の中身ともつかぬなにかが噴き出して、葉の緑に降りそそぐ。嫌なねばりけのあるそれを正面から浴びて、男は低く呻いた。刃に黒ぐろと絡みつく血糊をなんとか払い、やっとの思いで鞘におさめるやいなや、次は梢を揺さぶるような怒号が飛んでくる。)……あ……、その……これは……。(じり、と後ずさる。魔物の咆哮よりよほど恐ろしい剣幕でまくし立ててくるそのひとは、若衆を導く指南役のひとりだ。技巧もへったくれもない、力まかせの戦いかたを彼に叱責されるのは、この討伐が初めてではなかった。今日のように、図体ばかりが大きい一匹を相手どるのであれば、まだよい。けれど咄嗟の判断が状況を左右する場においては、偏った戦法の癖が命取りになる。それを常々言い聞かされたうえの失策であったから、男は力なく首を垂れた。)……申しわけ……ありません……。(胸を病んだ者のように、言葉を重たく吐き出すたびに顔を歪める。戦傷を受けてのことではない。ただ、頭の俯けかたや背の丸めかた、騎士の鎧には到底似つかわしくない陰気なしぐさが、骨の髄まで染みついているというだけ。うなだれる男の様子になにを思ってか、相手は怒気を逃がすようにため息を吐く。「剣筋は悪くないのに」と諭す声は、いくぶん和らいで聞こえた。「実戦だとなぜこうなる?」)……それは……、(言いよどんで、考える。おのれが得意とするのは、剣技というより舞踏のそれに近い。主に式典や祭礼で、観客の目を楽しませるために振るわれる剣だ。騎士団の面々が駆り出される模擬試合では――表立ってそうと定められたわけではなかったが――泥臭い競り合いよりも、派手な立ち回りが喜ばれた。めいめいがたなびかせるマントも鮮やかに、魔術を扱う者は得物のひと振りごとに火花や雷光を降らせ、その軌跡に華やぎを添える。王国の盾たる騎士が道化のまねをして、と鼻で笑う者もあるけれど、男はこの剣戟が好きだった。切っ先を高く跳ねあげ、刃を鋭く交えるとき、指の先まで震えが突き抜け、心は晴ればれとして、いつまでも舞っていたいとさえ思う。しかし――。顔を上げぬまま落とした視線を、うろ、と所在なくさまよわせる。魔物の骸から流れ出た体液が、鉄靴に踏みしだかれた下草の香と混じりあい、ひどいにおいを放っていた。)……目が、我慢ならないのです……。理性を持たない、けものの……くらく、おぞましい……、あの目にさらされると、ぞっとする。……それで……考えるよりも先につい、こう……。(言いわけがましく並べ立てるうち、男の肩は次第にしおれ、陰鬱に沈み込んだ。)……どうせ、……どうせ剣を抜かねばならないのなら……心通じぬ魔のものより、ひとを相手にするほうがいい。(転がり出た本音を少なからず恥じて、ひっそりと口をつぐむ。無風の世に生まれ、いくさを知らぬ身ゆえのたわごと。騎士の風上にもおけぬつぶやきは、相手のもとまで届かなかったか、それともあえて聞き流されたのか。咎め立てる手つきではない、力強い拳で男の背中をどんと叩き、「案ずるな。数をこなせば、じきに慣れる」と鼓舞する彼が、ふと空を見上げる。つられてあおのけた鼻先に雫がひとつ、ふたつ落ちたかと思うと、見る間に銀色の糸が視界を埋め尽くした。城に戻るまでの道中、恵みの雨は不浄にまみれた身体を洗い流し、すっかり清めてくれるだろう。そう思うと、気分は少し軽くなった。)