Rachel Una Kyklos
レイチェル・ユナ・キュクロス
年齢
17歳
身長
160cm
イメージカラー
ムーンシャイン・ブルー
騎士
ジルベルト
さあさ、皆みなさま、お立ち会い!
キュクロス王国、末の姫君の剣技をご覧にいれてみせましょう!
……なんてね。騎士の国なれば、剣をとれば、呪いをそそげると思ったの。
愚かなこと? 夢物語? 現実はね、高き峰にかかる雪よりつめたいのよ。
性格備考
血は呪いに打ち勝つか──そんなことを考えて、もう十年以上も剣を握っている。双ツ首の竜を打ち倒した騎士の血筋より興ったこの国の王室で、忌むべき双子の片割れとして生まれた。建国神話を学び、なぜ自分“たち”が城の奥深くに秘されているのかを理解したその日から、ふたりの末姫は剣をとる。もとより活発で、身体を動かすことを苦としなかったために、いずれ長じて脱走を企てられるよりはと見逃された側面もあったのだろう。とはいえ女人の、それも後ろ暗い事情がある身で、大っぴらに騎士団の鍛錬に加わるわけにもゆくまい。師事するのはすでに一線を退いた老騎士ばかりで、その内容とて、貴族の子弟がいそしむような作法としての剣術ばかり。なにか驚くような才覚を発揮して、周囲を唸らせるということもない。ただ風変わりな姫君のお戯れ。仕える乳母や、侍女の印象としてもそんなところだろう。それでも愚直に振るい続ける。おかげで本職の騎士には遠く及ばねど、深窓育ちではありえぬ肉刺のつぶれた掌と引き換えに、稽古から逃げまわるすぐ上の王子たち相手であれば、やすやすと打ち負かせるくらいの腕前は得た。大人しげななりをして、ときどき冷めたことも口にする。感情をはっきりと表す悪戯好きが姉で、振りまわされて奔走する尻拭い役が妹だ。動きやすさを優先して必要時以外は男装をとるため、姿かたちは小姓のそれ。双子のあいだでは「レイ」「シェリー」と愛称を使い分けている。
ある日のこと
c:フリーシチュエーション
(キュクロス王国、その王城の奥深く。登城をする諸侯はもとより、勤める使用人たちでさえその大半は存在を知ることのない、封じの魔法にまもられた空間がある。小さな庭と、回廊と、ほんのわずかばかりの部屋。限られた王族と、乳母と、口の堅い侍女のみにしか立ち入りをゆるされぬその場所には、この国いちばんの秘密が息づいていた。およそ十と七年ほど前から。いまは亡きひとりの妃が、禁忌の双子を産み落としたがゆえ。「“シェリー”、ここに居るんでしょう! ほら、降りてらっしゃいよ」──とある日の昼下がり、庭木のひとつに登ったままうたた寝を決め込んだ妹姫へ向けて、瓜ふたつの姉姫がほがらかに声をかける。うとうとと、夢とうつつを行き来していた眠たげなまなこが、半分閉じたまま億劫そうにいらえよう。)…………やあよ。わたし今日は、あ・さ・か・ら、いそがしかったの。(わざわざ強調したところで、堪える性質でないのは知っていたが。)悪戯好きの誰かさんが、冬支度中の大きなカエルを掘り起こしてまで、新しいガヴァネスの部屋に放り込んだでしょう。かわいそうに。あれだけ高い塔の窓から放り投げられたら、ひとたまりもないわ。だから、運よく通りがかったまではよかったのに。ご親切のつもりで顔を出して、引き取って裏庭で放してやったあと……どこから聞きつけたのか、かんかんに怒った女官長がやって来て「あなたさまの仕業でしょう!」とね。……まったく。お兄さまたちも遠巻きに面白がるばっかりで、ちっとも援護をしてくださらなかったのよ。(くだんの憐れな貴婦人は、午前のうちに辞して城から下がったのだという。「うふふ。お兄さまたちのご様子が目に浮かぶわ。女官長の、こ~~んなに吊り上がったまなじりもね」。おそらく木の下で顔真似をしているのだろう、まるで悪びれていない声の調子に、ひとつ、これみよがしにため息を吐いた。)はあ……。もうっ。こんなことなら、今日の“表”もあなたに任せればよかったわ。“レイ”。(ながながと経緯を説明するうちに、睡魔もすっかりどこぞへと去ってしまい、ここでようやく相手を見下ろす。同じ顔つき、同じ衣服をまとった少女を。)薄情なお兄さまがたは、次の手合わせで、こてんぱんにのして差し上げることにする。(かかえていた膝をほどき、飛び降りるために体勢を整えよう。さすれば、心得たように一歩か二歩ほど退がる気配。幾度か感覚を確かめたのち、ぴょんっと、深窓の姫君らしからぬ身のこなしで、かるがると着地を果たしてみせるのはたやすかった。片割れが笑う。「いいのよ。宮廷での礼儀作法だの教養だの、これまでの焼き直しなんてまっぴらだわ。それに、さっきあなたがかわいそうにと言ったのも、ガヴァネスでなくてカエルにでしょう」。城のなかでさえ男装をとることの多い、秘密を差し置いても出来の悪い末娘に気を揉む継母上《ははうえ》の心配もごもっともだが、こちらの意見としても同じだった。隣へ降り立ち、秋でも青々と茂る芝を踏みながら歩きはじめる。ほどなくして並ぶ足音。)……そうね。わたしたちには、そんなことよりも、もっと追究するべき至上の命題があるもの。(勿体ぶるようくちびるに笑みを刷く。こういうときばかりは、悪戯好きのおてんばが、そっくり乗り移るような表情をした。ふたりで息を吸う。二対の瞳は、ひどく楽しげにきらめいて。)すなわち──「血は呪いに打ち勝つか」。(たしかに建国王の血を引くくせ、われらが身のうちで呼吸をしている呪い。生まれてきた意味、生きている意味。あるいはそんなものは存在しないのかもしれないが、“それ”を探すことは、双子にとって生そのものであったから。)さっきの言葉は、まだ終わってない。(とは、薄情な兄王子たちへの宣言のことだ。)こりないおてんばには、四千三百二十五度めの勝負を申し込むわ。今日の勝ちは、譲ってあげないから。(禁忌のなんたるかを教えられてから、十と数年。日がな稽古に励み、互いに剣の腕を磨いてきた。それがたとい、本職の騎士らからすればお笑い種の、穢れを知らぬ太刀筋であっても。さして広くもない庭を横切れば、鍛錬用の刃を潰した剣をそれぞれ手に取り、ちょうどよい位置で向かい合う。いつものとおりに。)いざ、尋常に──(「「勝負!」」 完全なるユニゾンが、澄みわたる空へと抜けていった。外壁に区切られた四角いブルー。かりそめの箱庭は、いまはまだ、ゆるやかな平穏を湛えている。)