Marguerite de Kyklos
マルグリット・ド・キュクロス
年齢
17歳
身長
165cm
イメージカラー
アスター・ヒュー
騎士
シャルル
だって、仕方ないじゃない。あの子は体が弱いし、アタシみたいに強くないの。
だからアタシは完璧にやってるわ。王族として、末姫として、何事も。
何か言いたそうな顔ね? でも、聞いてやらない。
――仕方ない事なんて何もないの。アタシは絶対に負けないわ。
性格備考
王宮の使用人たちは密かに言い合う、「姫さまは双子どころか三つ子なのではないか」と。もちろん、そんなものは噂に過ぎない。しかし、末姫の言動を思えばそう囁かれるのも致し方のない事だろう。王族として、淑女としてのマナーや教養、品格は完璧に身につけている。その優美な微笑みと立ち居振る舞いだけを見れば、ある者は見惚れ、ある者は褒めそやす。しかし、末姫の性根はこれ以上ないほどに捻くれていた。偽善者が嫌い。綺麗事が嫌い。王位継承権から程遠いと舐めてかかる下賤の者が嫌い。かといってすり寄っておべっかを使う貴族も唾棄すべき存在だし、自分に親切にする者など裏がないわけがない。一方で、社交的な面を持ち、パーティや茶会には頻繁に顔を出す。――それが災いしてか、始終苛立っている内心を無理に押し込めて笑みを浮かべているから、末姫の心は常に不安定だった。笑顔で毒を吐き、時には人の心に一生の傷を負わせるような罵詈雑言を浴びせ、かと思えば突然押し黙ったり、憂鬱そうな顔で物思いに耽って一言も発さない日もある。そんなだから、双子どころか三つ子だなどと噂される。噂の原因は、片割れと頻繁に入れ替わっている事などではない。社交を全面に担っているほうが、単に不安定だというだけの話だ。だって、もうひとりの末姫は体が弱く病気がちで、さらに臆病で引っ込み思案だった。だから、己が王族としての、末姫としての責務をすべて背負うしかないのだ。――どんな噂を立てられようが、忌み子として疎まれようが、死ぬまで生きてやると決めている。
ある日のこと
c:フリーシチュエーション
(――ああ。つまらない、退屈だ、腹が立つ、反吐が出る。どいつもこいつも馬鹿みたいなツラを晒して中身のない上辺だけの会話ばかり。貴族に必要なのは決して本音をそのまま言わぬ技術と、腹の探り合いの巧みさ、それに皮肉のセンスだと言うけれど、)あなた方の本音も腹の中も、すべてわたくしには透けるようによぅく見えていてよ。少し、お勉強と経験が足りないのではなくて? ああ――わかったわ! きっと今日の夜会にお集まりの方々は、腹の探り合いなどという下品な事はなさらぬ主義をお持ちの無垢な方たちばかりだったのね。だとしたら、場違いなのはわたくしのほう。大変な失礼を働いた事をお詫びしてよ。お招きいただいた侯爵さまには悪いけれど、……っふふ、これ以上わたくしと同じ空気を吸っていたら、皆さまのほうがご気分を悪くされてしまうわ。とはいえ、あなたがたに毒である空気はわたくしにも毒。ですので、そろそろお暇いたします。お料理も楽団の奏でる音楽も、皆さまの纏うお衣装も、お上品な会話も、とっても素敵でしたわ。えぇ、それはもう、退屈凌ぎにもならないほどに!(言いたい事を言いたいだけ言って、夜会の開かれている貴族の屋敷を後にした。自分が去ったあと、広間がどうなったかなど知った事ではない。どうせまた、「あの姫さまは、ほら……」と言葉を濁し、けれど王族たる己を嘲笑する優越感をわかりやすく浮かべた笑顔で、共犯者になったかのような気分を楽しんでいるのだろう。アタシはお前らの娯楽の道具じゃない。そう言ってやりたかったけれど、それこそ、貴い血が流れる者は本音をそのまま口にしたりするべきではない。王宮に戻る馬車の中、盛大な溜息をつき、窮屈な靴を脱いで放り投げた。「――姫さま」、同乗している側仕えの侍女が己を呼ぶ。靴を放り投げたことを咎めても、聞く耳を持たぬ事などとっくに理解しているだろうに。呆れるやら腹が立つやらで無視していると、侍女は恭しく、シンプルな、しかしすぐに良いものであるとわかるジュエリーケースを差し出した。無意識に、眉間に皺が寄る。)……アンタに心を許した覚えはないけど、賄賂を贈ってくるような馬鹿ではないと認識していたわ。アタシの鑑識眼も腐ったものね。自己嫌悪で今すぐ死にたいくらい。(「いいえ、姫さま。これは先日、茶会にお招きくださった伯爵家のご子息からの贈り物でございます」――帰ってきた返事に器用に片方の眉だけを吊り上げてから、合点がいった。そして意図的に顔を歪めて、侍女を睨みつける。彼女は、“末姫マルグリット”が双子である事を知っている。)その茶会とやらに出てどこぞの伯爵子息を誑かしてきたのは、アタシじゃなくてあの子のほうでしょう。なんでアンタがいまさら間違えるのよ。アタシじゃなくてあの子に渡して。(言い捨てて再び溜息をつく。体の弱い“片割れ”が、今は体調がいいから、たまには自分が末姫としての役目を果たしたいと自ら言い出した事だった。あの子に貴族連中どもとの腹の探り合いなど務まるのだろうかと心配で仕方なくて、だから、自分たちが双子だと知っている使用人をすべてあの子につけてやった。それは、ジュエリーケースを差し出している侍女だって知っているだろうに。しかし彼女から返ってきたのは意外な返事だった。――曰く、確かに、辺境の伯爵家の茶会に出向き、その子息と言葉を交わし、親しくなったのはもうひとりの“マルグリット”のほうで、贈り物もはじめは彼女に届けられた。しかし、その“もうひとりのマルグリット”が言った。伯爵子息は、『初めて会った時のきみの笑顔に惹かれたんだ』と言っていた、と。その日の茶会はともかく、昔日に初めて会ったのは自分ではなくもうひとりのマルグリットで、だから、このプレゼントを受け取るべきは自分ではなく、片割れのマルグリットのほうだ、彼女に渡してほしい――そう命じられたのだという。顔を歪めたまま、ベルベットに包まれ、ささやかな花飾りがついたジュエリーボックスを受け取る。蓋を開けたくなくて、透視の魔法を使って中身を見た。そこには、己の――そして、“もうひとりのマルグリット”の髪の色をそのまま映したような色の宝石が使われたネックレスが収められている。)趣味、悪。アタシを落とせば王家に食い込めるとでも思ってるのかしら、辺境貴族ごときが。馬鹿じゃないの。あの子も、辺境のおぼっちゃまも。(捨てておいて。そう言って人差し指を立て、魔法で浮かせたジュエリーケースをそのまま侍女に押しつけようとしたが――すんでの所で思いとどまった。彼女に返してしまえば、このネックレスはきっと、もうひとりのマルグリットのもとへゆくだろう。頭の中が花畑のようにできているあの片割れは、それを『もうひとりのマルグリットが自分と伯爵子息の仲を認めてくれた』と、どこまでも自分の都合のいいように解釈する。馬鹿だ。愚かだ。やはり、彼女を表に出すわけにはいかない。末姫とはいえ王族としてやってゆくには、それも隠された双子として生きてゆくには、頭が弱すぎるし――なにより、無垢すぎる。辺境の伯爵子息との恋など、叶うはずがなかろうに。そもそも、忌むべき双子として生まれた自分たちが、普通の人生など送れるはずがないのだ。あの子は、それをまったくわかっていない。頭の中の花畑を焼き尽くしてやろうと、何度思った事か。――ああ、馬鹿馬鹿しい、忌々しい、腹が立つ、反吐が出る。けれど、それらを吐き出す事にもいい加減に疲れてきた。だから、多くのものを呑み込んで、代わりにジュエリーケースを強く強く握り締めた。)手紙を書いて。王家の正式な封書で。『こんなものを送られても迷惑です、二度とわたくしに関わらないで』って。(馬鹿馬鹿しいし、忌々しいし、腹が立つし、もう、こんな人生には飽き飽きだった。それでも、投げ出すつもりはない。母の命を喰らって生まれてきたのだ。そして己は、きっと、片割れの命も喰らいながらこの世に産まれ落ちたのだろう。片方だけが体が弱く、自分のほうは健康そのものだなんて。双子が災いを招くというのは、あながち間違いでもないのかもしれない。――それでも、生きてゆく、生きてやる。そうする事でしか、この世界に復讐できないのだから。)