Solavilena Mia Kyklos
サラヴィリーナ・ミア・キュクロス
サラヴィリーナ・ミア・キュクロス


- 年齢
- 17歳
- 身長
- 161cm
- イメージカラー
- ララバイ・ブルー
- 騎士
- アルバート
ふたりで一人を生きるなら、そっくりおんなじでよかったのに。サラヴィリーナは姉より少しだけ丈夫で、早熟だった。差異は成長につれ大きくなり、3年ほど前からか。姉は熱で寝込む日が増え、比例するように妹の、おもてへ出る時間が伸びてゆく。体の厚みは胸を潰す下着で簡単に誤魔化せたけれど、いつだって疑われやしないかと妹は緊張していた。姉より少しだけ内気で、少しだけおしゃべりが不得意で、それから少しだけ――否。とても物覚えが悪いから。姉妹はそれぞれの経験を日記帳に残して共有したが、相手の記憶の吸収率には、天と地ほども差があった。まず姉と話し、次に妹と話した者のほとんどは、妹のとき落胆する。あんなに親しげだったのに今日はよそよそしい、と感じるのだ。姉は相手の顔や名前を覚えるのが大の得意だった。「前に好きだと言っていたでしょう?」と相手によって土産の菓子を変える心遣いまでできた。周囲が“成りそこない”サラヴィリーナに概ね好意的だったのは、姉の人づきあいの上手さゆえだと妹はちゃんとわかっていた。だからおもてに出るときは、必死に姉のことを真似るのだ。ほんとうは姉より少しだけ馬の扱いと歌が得意だった。でもそれがなんの役に立つだろう。だれの心を掴むだろう。――ふたりで一人を生きるなら、そっくりおんなじでよかったのに。まるきり姉で、よかったのに。妹は、姉になりたかった。
ある日のことa:身に覚えのない思い出について話を振られた
(ふたりで一人を生きるのが、昔よりむずかしくなってきた。おさなごのころは取り沙汰されなかった些細な矛盾や失敗も、齢十七ともなれば疑念の種となるのは当然のこと。“おもて”を姉に任せた翌日、「昨日お話しした…」と切り出されるたび背中がひやりとする――そう、ちょうど今のように。もうすぐ咲きそうな白薔薇があると片割れがしきりに話すので、興味が湧いて教わった場所へと向かう途中で声をかけられた。親しげな口ぶりの使用人に、努めておだやかに笑む。日記帳を胸に抱いた腕に、知らず力が入っていた。)あ……ご、ごめんなさい。昨日の……、……え…っと……(姉が綴った昨日の日記には、なんて書いてあったっけ。忘れた。5回も読んだのに。思い出せ、思い出せと必死に脳内をひっくり返すけれど、そもそも姉の記録は妹のそれに比べいつも短いのだ。妹のように几帳面になにもかもすべて書き残さなくとも、姉は覚えていられるから。つくづく人づきあいに向いてる。)……おにいさまの馬のはなし?(一か八か、おずおず問うてみたけれどやはり間違っていた。相手が「違いますよぉ」とからから笑ってくれたのが救いか。「たくさんの方がお見えでしたものね」こんがらがってしまいますよね。その言葉には“半分”であることへの憐憫は滲んでおらず、純粋な、好意的な気遣いの心だけが感じられた。――ぎゅっと、胸が苦しくなる。)そうなの。にぎやかだったから、はしゃぎすぎちゃった。……みたい。(わたしではなく、あの子が、だけど。昨晩遅くまでおもてに出ていた人好きで虚弱な片割れは、今日は熱を出して寝込んでいる。だから無理しちゃだめだって言ったのに――案じるゆえの腹立たしさに知らずくちびるを噛んでしまって、その顔ばせを見た使用人が「…ご無理なさらずに」と眉を下げた。)……ええ、そうする。ありがとう。(ほのかに笑んで、礼を述べる。はしゃぎすぎたと話したむすめが沈んだ表情を見せたのだから、その声かけは至極真っ当だ。わかっているのに複雑なのは、その優しさを受けとるべきは姉であり、自分ではないから。こんがらがってしまいますよね、と庇ってくれた言葉もそう。彼女がわたしに親切なのは、姉が彼女に好かれているから。姉が“ほがらかなサラヴィリーナ”を半分生きてくれているおかげで、もう半分のわたしも皆に親切にしてもらえるのだ。ちゃんと弁えている。ちゃんと。)……あっ、そうだった。あのね、白薔薇を……もし咲いていたらなのだけれど、すこし分けてもらおうと思って。庭師の、……彼。今の時間、どこにいるかしら。(ぼろが出ないうちに場を離れようと紡ぐ台詞に穴がある。姉なら庭師の青年のこともきっと名前で呼ぶだろうに。「ああ、ハロルドですか?」助け舟を出してくれる使用人に頷き、ガゼボの近くで見ましたよと言うので「そう」と短くいらえた。ご一緒しましょうかとの申し出は断り、ひとりで歩きだす。――今のやりとり、サラヴィリーナとして及第点は取れただろうか? なんだか今日はいつもより、息が詰まるような心地がする。)……今朝、ちょっときつく締めすぎたかしら。(それとも、すこし太ったかしら。ほんの僅かに眉を下げ、右手で胸のあたりをそっと撫ぜた。)
気づいたとしたら、どう? もう半分も、ほしいでしょう。
わたしが言っているのはそうい……え? いえ、食い意地とかじゃなくて……
~~~っ、おっ、おまえ失礼だわ! ……食いしんぼうじゃないったら!