(彩りが失われゆく時のなかで。)
(騎士と出逢った春の日から、アナスタシアは引き籠りを極めていた。日がな一日自室で過ごし、双子の姉からの逃亡先は中庭から空き部屋へ。片割れはいつも通りのままだから、表向き変わったことといえば、日常に付き人の姿が加わったことくらいだ。姉は騎士の仕事ぶりをきゃっきゃと語り、黄色い声を真似なければならないのかと恐れ慄いたものの、幸い人前では慎んでいる様子。適切な頻度と距離感で仕事を頼み、騎士から何らかの申し出があれば快く受けよう。連れ立つ用もなければ頼むようなこともないアナスタシアは、見掛ければ挨拶を交わす程度に留めている。姉を演じる手前露骨な態度はとらないが、有り体に言うと接触を避けていた。春の花々は散り、夏の暑さも知らぬままに、草木の枯れる秋を迎える。そんなある日のこと。)エリックさん、お出掛けをしましょう。(早朝、開口一番高らかに宣言を放つ。避けていたことなど微塵も感じさせない、にこやかな笑みと共に。引き籠もりにとっては一大決心であれど、姉は城下町に行くことも割とあるから、騎士にとって珍しいお誘いではなかっただろう。)仕事として行く気はないのだけれど、どんな服装がいいかしら。お姫様ならいつも煌びやかなドレスを着ているべき? それともお忍びらしく使用人から制服でも奪ってきた方がいい?(物騒な選択肢は冗談めいた口振りをしながらも、半ば本気。年頃の近い者がいれば借りられるのだろうが、残念ながらそんな交友関係など存在しない。呼び出した場所は衣裳部屋で、要するに「選んで」と言外に伝えていた。ワードローブには衣類が並び、外套や小物類も揃っている。双子の姉と共有しているため、普段着ることのない社交用のドレスや、お忍びに適切な服もどこかにはある筈だ。)ちなみに行き先も全く決めていないわ。エリックさんは休日とかどこか出掛けたりするの?(ドレッサーチェアに腰掛けて、騎士の行動をワクワクしながら見守っていた。今の姿はいつもと同じ、秋の気候に合わせた長袖の白いワンピースドレスに、2つに結んだ髪に同色のリボンを飾っている。このまま出掛けようと思えば問題なく出ることもできよう。)
* 2022/10/22 (Sat) 16:17 * No.9
(春を見送り、夏が過ぎ、秋を迎えるころには付き人としての振る舞いも板に付いてきただろうか。二度目の名乗りを上げた過日より、姫の一挙一動をさりげなく観察し続けていた。個人的な所感で言えば、姫は風変りというか、極端というか、振れ幅が大きい。よく来ると言っていたあの中庭で見かけることが無くなり、向かうのも別の庭ばかりになった。姫が仕事に赴かれる際は付き添い、社交の場でも壁際に控えつつ警護にあたり、忠実に職務をこなしながらも主従として円滑な関係を築いていると思っていた。だが時折、姫が妙によそよそしいと感じる。引っ掛かりを覚えることは何度かあったが、他人に気を遣わず過ごしたいときもあるのだろうと己を納得させてきた。今日の姫は、そちらの気分らしい。見慣れた笑みに、こちらも微笑みを返す。)姫様のお誘いとあらば喜んで。(とは言うものの、ずらりと並ぶ衣裳や装飾品の数々に若干の目眩を覚えていた。姫の衣装を選別するのは目利きの良い侍女の役目であるし、そもそも男と女では装備する数に雲泥の差がある。呼び出されたのは己ひとりだけ、姫の言わんとすることを察すれば、緊張した顔つきで衣裳部屋の中を一歩踏み出した。)ドレスは目立ちますから、お仕事でなければご遠慮ください。使用人の制服も同じく。(奪うのは止めてくださいと暗に告げる。日頃は使用人に分け隔てなく、そして優しく接している姫の口から出たと俄かに信じがたいが、今日の姫は相当お疲れなのだと思った。)……私ですか? 町を見て回ったり、足を伸ばして森を見に行ったり、ですよ。(春先にも似たような質問をされて、今と同じように答えた。そのとき姫は確か、休日なのに見回りだなんて仕事熱心なのねと褒めてくださった気もする。日常的な他愛無い会話など、姫が忘れてしまっても何ら不思議ではない。己だけが強く覚えていれば、きっとそれでいいのだ。)城下町の大通りはいかがですか? まだ姫様が訪れていないお店はいくつもありますし、収穫祭が近いので賑わいもあってよろしいかと。(行き先候補を挙げながら、お忍びに適切な服を探して部屋の奥へとゆっくり進んでいく。)
* 2022/10/22 (Sat) 20:11 * No.12
(事前の相談もなく突然誘ったとて断られるとは思っていなかった。けれど、実際に快諾し微笑む姿に、思わず目を丸めてしまう。この人全然変わってないな、と。)お姫様が外に抜け出す時、使用人に変装するのは定番じゃない? あ、でも奪うのは密偵が城に潜入する時くらいかも……スリルがあって楽しそうよね。(疲れていると思われているとは露知らず、ぷらぷらと楽しげに脚を揺らす。平和ボケした話は情勢が安定しているからこそというべきか。休日に何をするかの答えには、意外そうな声を漏らす。本来ならば出逢った当初に交わされるような素朴な質問をしてしまったのは、油断がどこかにあったのだろう。だから、騎士の提案にはどきりと言葉に詰まってしまった。)収穫祭、が近いなら、おいしいものが並んでそうね。お昼はお店に入るより、食べ歩きがしたいわ。(姉から話は聞いていたけれど、当たり前のように“今まで”の話が出てきたから。季節が2回も変わったのなら、本当に当たり前の話だった。一度息を深く吸い、ドレッサーチェアから降りて騎士の後をついていく。「森は今の時期紅葉が楽しめそうね。」声はすっかり元通り。シンプルな衣装はお忍び服らしく隅っこにまとめられているものの、騎士にとって不幸なことに、衣装の色や形も種類が豊富だった。控えめなフリルやレースが縁取られたブラウスやスカート、町娘が着るようなエプロンドレスやビスチェなどなど、変わり種に国外の民族衣装すらある。)念のため言っておくけれど、好みを当ててほしいわけじゃないから。(助言をする気もどれがいいか答える気も一切なく、騎士が選ぶ様をにこにこと見ているつもり。)
* 2022/10/23 (Sun) 05:48 * No.20
(部屋を見渡しながら顔を顰めたのは、衣装選びに難航したからではなかった。姫が気分転換か本気か分からぬぐらいに、刺激を求めてしまうほどの心労を抱えていたと気付けなかった己への苛立ちである。軽く息を吐いてから、肩越しに姫の方を振り返った。)もし、姫様が外へ抜け出したいとお思いならば、私は全力でお手伝いいたしますよ。変装は却って怪しまれますから、お仕事のフリをして堂々と正面から出ていきましょう。そのあと外でこっそり控えめな服に着替えて、人混みに紛れてしまえばいいのです。美しい御髪は、帽子で隠したほうが良いかもしれませんね。(楽しそうな雰囲気を装っているが脱出計画は具体的かつ、姫へ向けた目は本気そのもの。諫めるのは他者でも出来るだろう、ならば己ひとりぐらい姫の心に乗じても構わないだろう。かくれんぼは得意なんです、と冗談めかして笑っておいた。)食べ歩きですね、かしこまりました。旬の果実を使った、美味しいクレープ屋にご案内しましょうか。(上下が別れている組み合わせのほうが動きやすいのではないかと想像するばかりであるが、比較的控えめな服が並んでいる隅っこへと寄っていく。森へは魔物が潜んでいないか見回りに行くばかりで紅葉を楽しむという発想がなく、そうですねとぎこちない相槌を打った。念押しの言葉は助け舟であり、少しばかり肩の力が抜ける。)それを聞いて安心しました。どれも姫様に似合うものばかりで、目移りしてしまって……。(衣裳部屋に置かれている以上は一応どれも姫の好みに違いないのだろうが、不慣れな男が選び取るのは至難の業だ。一度足を止め、目を閉じて気持ちを切り替える。やおら目を開いて、ひとつ、またひとつ手に取った。オフホワイトのシンプルなフリルブラウスと、秋色のミモレ丈スカートを組み合わせて、姫へと向き直る。)姫様が秋を纏う、のはいかがでしょうか?(返事を待つ間は短かったかもしれないし長かったかもしれないが、今まで生きてきた中で上から数えて何番目かぐらいに、とても緊張していた。)
* 2022/10/23 (Sun) 18:43 * No.27
え。(外へ抜け出すお手伝い。虚をつかれたように顔を見遣る。ばっちり目が合って、動揺に目が泳いだ。)……ふーん? いいこと聞いちゃった。別に、外に出るのは禁止されてないけれどね。エリックさんて意外と不真面目なのね。(語られる詳細な脱出計画に、そっと口角が上がる。姉が表に出ている時は外に出るわけにはいかないけれど、別に禁止されているわけではない。そうしようと、決めただけ。なのに自然と声は弾む。「特技を活かす機会がなくて残念ね。」残念そうな素振りを見せずに笑い返した。)クレープ、おいしそう。ぜひ案内して頂戴。エリックさんは、行きたい場所ないの? 仕事から抜け出すチャンスよ。(本気で不真面目とは思っていないから、もちろん冗談。一歩遅れてついていき、あまり立ち入ることのない衣装部屋に関心はないから、ただ騎士をにこにこと見守った。)なんでもお似合いですよって着の身着のまま出発になる可能性も考えてたわ。真剣に選んでくれるのね。(そうして選ばれたトップス、スカート、と目を移して、視線は騎士の顔へと戻る。目をぱちくり。少しもったいぶらせてから素直に微笑もう。)秋を纏う。うん、素敵な響き。普段と違う感じなのに、私にぴったりね。オフホワイトを合わせるところにもセンスを感じるわ、色の統一感が出てるもの。毎日エリックさんにコーディネートしてもらおうかしら。(ぱちぱちと手を叩き大絶賛。着る服を選ばせるなんて困るかなという意地の悪い気持ちで見守っていたけれど、予期せず素敵な装いとなって普通に喜んだ。ありがとうと手を出して受け取る姿勢。そして、騎士のいつも通りきっちり着こなしているであろう制服姿に目を向け、)私着替えるから、エリックさんも着替えてきていいよ。城門前集合ね!(命令やお願いというよりも、当然といった調子で宣言する。だってお忍びだもの。迎えに来るなどの申し出があれば、お出掛けは待ち合わせが定番だと固辞し、難色を示すようなら集合場所の変更程度は受け入れよう。)
* 2022/10/24 (Mon) 13:39 * No.38
おや、私はてっきり――姫様が虚偽の行き先を申告し、別の場所へ向かうようなスリルをお求めかと思いました。姫様のお力になるのが私にとって正しいことであり、その結果が不真面目であれば望むところです。(悪びれる様子もなく、愉快そうに口ずさむ。姫は城下町へ割とよく出かけられるし、今まで行動が制限されていると見受けたこともなかったが、姫から直に聞くのは恐らく初めてだ。不真面目な己を反面教師にスリルを求めるのは程々にしてもらえるならばそれで良し、今の話を間に受けて脱出の片棒を担がされるならば喜んで。どちらに転んでも己は一向に構わなかった。)私の行きたいところですか? そうですね……今年はピスタチオの出来が良いと聞きましたので、焼き菓子は食べておきたいです。(姫の傍らにいるうちは仕事を放棄するつもりなど毛頭ないが、姫の心遣いを蔑ろには出来ず、咄嗟に思いついた食材を和やかに挙げておく。)今の召し物も良くお似合いですが、あまりにも可愛らしいので色々と心配になります。(そのまま外に出れば町中の視線をかき集めてしまうとすら思えてならない。だから控えめな、でも地味すぎない服を選んでみた。予想外にも大絶賛を受け、恥じ入るように目を伏せる。)お気に召していただけたら幸いです。侍女の仕事を取ってしまうわけにはまいりませんので、毎日はどうかご容赦ください。(侍女がこの場にいないため、遠慮かちに姫へ服を手渡そう。そして着替えてくるよう言い渡されれば面食らったものの、騎士が連れ添っていればお忍びが台無しであると確かに理解して、快諾したのち一旦その場を辞する。大股の早歩きで寮舎に戻り、あまり多くはない私服を選ぶのは先程と比べてとても簡単だった。シャツは制服のものを流用して、枯れ葉色のテーラードジャケットに袖を通し、黒のスラックスで締める。懸念材料は、武器を持ち歩けないこと。)……あまり使いたくはなかったのですが、仕方がありませんね。(あるものを手のひらに握りしめて、待ち合せの城門前へとこれまた早歩きで向かった。己が先に着いたならば呼吸を整えつつ姫を待ち、もし姫を待たせていたならば深々と頭を下げて謝ろう。)姫様、これを身に着けていただけませんか? 秋風の妖精が眠る指輪です、何かあったときには妖精が姫様を守ってくださいますよ。(姫へと差し出した手のひらには、ちょこんと指輪が乗っていた。小さな紅い石が飾られているシルバーリングだ。誰の指でも通るよう伸縮自在であり、実際は風の加護魔法が掛かっている代物であった。)
* 2022/10/25 (Tue) 00:39 * No.45
嘘をついてまでスリルを味わうなんて、とっても悪ね。そんな発想、まるで思い浮かばなかったわ。今後道を踏み外すようなことがあれば、きっとエリックさんのせいね。(制服を奪う話から始まったにもかかわらず、口元に手を添え他人事のように驚いてみせる。実際、楽しそうだなと思ってしまっていた。焼き菓子ね、と回答を得られたことに満足げに頷き、褒め言葉には目を瞬かせた。)侍女が辞めたら採用してってことね、覚えておくわ。(受け取った衣服を胸に抱え、着替えたらすぐ行くね、と別れた後。服に袖を通し、髪にはオフホワイトの長いリボン、脚には秋色を引き立てる焦げ茶のタイツを合わせる。いつも侍女に任せきりだから、一部だけでも自分で選ぶのは新鮮な感覚だった。真新しい革のショートブーツに履き替えいざ出発、と意気込んだのはいいものの。「ご機嫌よう。」「これから出かけるの。」「お仕事がんばってね。」呼び止める人の多さに内心げんなりしながら笑顔で手を振り歩く。さすがに顔が知れ渡っている王城でのお忍びは叶わない。徐々に足早となってようやく外へとたどり着く。)お待たせ!(秋にしては随分と眩しく感じる空の下、季節の色を纏う騎士のもとへと駆け寄った。)……妖精が? うん、借りるね。できるだけ起こさないよう気をつけるわ。(差し出された指輪には興味津々。両手で丁重に受け取り、ぐるりとリングを見回した後、妖精の姿を紅い石に探す。そうしてまじまじと指輪を見つめている時だった。「姫様、ちょうどいいところに!」木製の大きな箱を抱えた騎士が近づいてくる。見覚えはない。「先輩お疲れさまっす!」私服の騎士にも爽快な挨拶をし、アナスタシアの目の前に木箱を差し出した。「姫様からお伺いしてた落とし物、出てきたっすよ。どうぞ!」――どう考えても姉のことを示している。表情が強張るのを感じながら、中を覗き見れば他の人の遺失物も納められている様子。視線を巡らせど一目でわかるような姉のものは入っていない。どうするべきか、「今日またお出かけっすか? いつも仲良くて羨ましいっす。」考えるのが途端に面倒くさくなってくる。)……本当に、私のもの?(少なくとも“私”じゃないけどね、という理不尽な不機嫌さが声に滲み出て、表情はすっかり抜け落ちていた。忘れているとも、否定されているとも、疑われているともとれる言葉に、年若い騎士は目を見張り固まる。先輩、助けて。)
* 2022/10/26 (Wed) 06:25 * No.55
おっしゃる通り、すべて私のせいになりますね。それではどうか、先程の話はご内密に。(姫からの手厳しい言葉の数々を粛々と受け止めて、しおらしさを覗かせながらも楽しそうに言葉を結ぶ。良からぬ知恵を与えてしまったらしいが、知っておいて損はないだろう。聡明な姫が、道を踏み外す愚行をおかすとは到底思えないが故の余裕もあった。侍女には長く勤めてもらえるよう後日お願いするついでに、姫様の服選びのコツを聞いておこうと思う。もしもの備えは大事である。そのひとつが差し出した指輪であったが、姫が日ごろ身に着けている装飾品と比べてしまえば玩具のような外観は否めない。姫に少しでも躊躇う素振りがあれば引っ込めるつもりでいたが、むしろ興味ありげな様子に良心が痛む。妖精は言葉の綾だと絶対に言うまい。)指輪の大きさは身に着ける方に合わせて変化しますので、お好きな指にお通しください。(指輪は今、最後に嵌めた己の指の大きさであり、姫の指をするりと奥まで滑っていくだろう。妖精についてもう少しだけ補足しようとしたが、 溌剌な後輩がやってきたのでそちらへ向き直る。)おつかれさまです、オリバーさん。……ああ、やっと見つかりましたか。良かったですね、姫様。(大きな箱を見下ろせば"それ"はあったが、扱いが些か雑だ。恐らく保管箱を丸ごと持ってきたのだろう、早く届けたいという気持ちは分からなくもない。後輩なりに気を使った会話にありがとうございますと謙遜混じりの言葉を返したが、鈴を転がすような声が場の雰囲気を一転させたのを肌で感じる。ああ、かわいそうなオリバー。)見つけ次第、連絡をとお願いしていたのは私なのです。御前でのご無礼をお許しください。(後輩の隣に立ち、固まっている彼の分まで深々と頭を下げて詫びる。数拍置いていて顔を上げ、大きな箱の隅にあるアクセサリートレイから、小ぶりな真珠のイヤリングを拾い上げた。)先日の社交サロンに出席された際、片方のイアリングを落とされてしまわれたのでしたね。これでまた、姫様のお耳を飾ることが叶います。(姫の疑問に答えるべく経緯を述べつつ、ハンカチを取り出してイヤリングをそっと包み、後輩の上着の外ポケットに優しく押し込む。)オリバーさん、あなたに新しい仕事ですよ。そのイヤリングを姫様の侍女へ届けるのです。さあ、行きなさい。(後輩の背中を軽く二回叩いて体をほぐしてやれば、「必ず届けてくるっすよ、ふたりともお気を付けて!」と元気よく去っていった。門前には静けさが戻っただろう。今日は天候に恵まれ、絶好のお出掛け日和である。)では、私たちも参りましょうか――お嬢様。(再び姫の傍らへ戻れば、いつも通りのお忍びの設定を持ち出した。先程のように姫が訝しむのであれば、確認を兼ねて問いかける。)お忍びの際は『お嬢様と、その下僕』という設定でしたよね? もう飽きてしまわれたのでしたら、次にしてみたいとおっしゃっていた『お隣に住んでるお兄さんと、可愛いお嬢さん』でも構いませんが……。(その場合、姫を何と呼べばいいかまでは決めてなかったのでどうしたものかと。)
* 2022/10/26 (Wed) 21:57 * No.63
(「ご内密に。」その言葉に軽口を叩いていた口をぴたりと止めて、「どうしようかしら。」と悩むふりをして視線を逸した。楽しい脱出話はそれで一区切り。先程まで談笑していたのに、今は他人みたいだなと騎士の頭を見下ろしていた。湧き立つ感情はあっという間に萎えて、ぼんやりと経緯に耳を傾ける。社交サロンの日。侍女が耳飾りを見なかったか尋ねてきたけれど、あれは姉の探し物だったのだろう。)……急いで、届けに来てくれたのね。みんなで探しても見つからなかったと聞いていたから、出てきて驚いてしまったわ。(緩く笑みを形作って、仕事を託された騎士に「よろしくね。」と和やかに手を振り見送りながら、心は静かに荒れ果てていた。――まるで私に説明するかのような口振り。どうせ記憶が曖昧で、感情の起伏が激しい、“半分”だと思っているんでしょう、と。だから、唐突なお嬢様呼びを理解できず、語られるお忍びの設定には混乱に身が固まる。『下僕』――執事じゃなくて? お嬢様と呼ばれて喜ぶ姉の姿は目に浮かぶけど、人を下僕扱いする姉は思い浮かばない。なんで黙ってたのお姉様、いや聞いてなかっただけかも……。状況はさっぱりだけど、答えは決まりきっている。)お嬢様と呼ばれたい気分じゃないわ。せっかくお揃いの私服なのに、いつもと同じ上下関係ではつまらないもの。今日だけは親しみと愛情を込めて『ナーシャ』って呼んでくれてもよろしくってよ、エリックお兄さん。(何事もなかったかのように、『可愛いお嬢さん』を演じて、にっこりと笑んでみせる。今日は絶好のお出掛け日和。秋色のスカートを揺らして、門の外へと我先に足を踏み出そう。町の場所がわからないから、すぐに『お兄さん』の隣を歩くことになるけれど。王城へ向かう馬車や人々を後目に、握りしめていた手を開く。手のひらにのる大きな指輪をじっと見つめて、少し考え、小指へと通すことにした。)妖精の寝床にぴったりでしょ。(リングが指の大きさに合わせて収縮すれば、小さな石もちょうどいい大きさに見える気がする。指をぴんと伸ばし手の甲を向けて、本来の持ち主へと見せびらかす。)妖精とはどこで出逢ったの? それとも元から宿ってた?(指輪を渡してくれた騎士の胸中も知らず、妖精への興味は未だ尽きない。)
* 2022/10/27 (Thu) 23:18 * No.72
(姫が笑みを浮かべたとき、後輩共々どれだけ安堵したことか。姫にとってはたくさんある装飾品がひとつ見つからなかっただけの話であり、時間が経てば落としてしまったことすら忘れてしまうこともあるだろう。きちんと話せば分かってくれると信じているからこそ、出来る限り丁寧に伝えようと思えるのだ。落とし物しかり、お忍びの設定しかり。姫が別の新たな設定を所望されるならばそちらに合わせるのもやぶさかではなかったが、予め挙げられていた設定が今日の気分に合ったのなら何よりである。姫を愛称で呼んで良いものが一瞬たじろいだものの、姫の望みと己の気持ちを天秤にかければどちらに傾くかなど明白である。)かしこまりました。それではお言葉に甘えさせていただきますね、可愛いナーシャ。(姫へ笑みを返し、恐れ多くも親しみと愛情、そして真心を込めて姫を呼んだ。ごっこ遊びにしては熱っぽい囁きにぎょっとする門番を横目に流して、姫の後を付いて行こう。歩調を姫に合わせて、周囲の警戒は怠らないがさりげなく。姫の小指を許された指輪は、どこか誇らしげに見えた。)はい、妖精もさぞ喜んでいることでしょう。……その妖精は、物心ついたときから私の傍にいました。子供の頃は仲良くしていましたよ。今は必要なときだけ力を貸してもらっています。(僅かに逡巡したのち、そっと話し始める。魔法を妖精へ置き換えて、優しく遠回しな言い方に変えてしまえば随分とそれっぽくなるものだ。随分可愛らしいピンキーリングに変化したそれを見遣ってから、姫へと視線を移す。)妖精が気に入ったのであれば暫くお貸ししますよ、一か月ぐらいはそこに居るでしょう。指輪は私物で恐縮ですが、他の物へ移ってもらうこともできます。(にこやかに提案するが、ボロが出ないうちに妖精の話題を片付けてしまいたかった。私物で姫に身に着けてもらえそうなものが指輪しかなかったのであり、加護魔法は大体の物に掛けられる。クレープ屋への道順を思い浮かべ、歩く先に建物の角が見えてきたならば、あちらですと手のひらで方向を示して一声かけてつつ。)ナーシャには、こういう小さい頃のお友達はいましたか?(ごく自然な流れの問いかけに他意なく、他愛無い会話のひとはしであった。)
* 2022/10/29 (Sat) 11:26 * No.90
(己の名を呼ぶ声色に、門番と同じようにぎょっと肩を揺らしてしまった。親愛だなんて、ふざけて言ったつもりだったのに。門を潜る足が早まる。気恥ずかしさと苛立ちに顰めた眉は、幸い後ろを歩く騎士には見られまい。隣を歩く頃には妖精の話へと移り、語られる内容に笑みは浮かべられなかった。)……長い付き合いなんだ。ままならないこともあるよね。(妖精に、憧れがあった。どんな物語があるのだろうと膨らませた期待に後ろめたさを覚えて、伏し目がちに、呟くように声を落とす。妖精ともうまくいかないことあるんだなって。元は仲がよかったのなら尚更、悲しいことのように感ぜられた。)え、……うん。借りてしまおうかしら。せっかくだから、指輪からお出掛けさせましょう。城に戻ったら何がいいか、探してみるね。(妖精を借りる。いけないことのような気がして、躊躇って、仲が悪いならいいかと頷いてしまうことにした。指輪をすぐ返すことにしたのは、いつも姉と同じものを身につけるようにしていたから。衣装部屋に並んでいたようなドレスは別だけれど、普段着はいつもお揃いのものだった。ひとつしかないものは、分かち合えない。)……小さい頃は、テディベアを、よく連れ歩いてたわ。さすがに子供っぽすぎるから、今は部屋で大人しくしてもらっているけれど。(騎士を通したことはない寝室、枕元に置いたふわふわのテディベアを思い浮かべる。友達と思ったことなんてないけれど、いないとは言えないから友達に近そうなものをあげただけ。ぼそぼそと小さく告げながら、町の景色へと目を向ける。おのぼりさんにはならないようゆっくりと見渡せば、人々の活気づく様子がよく見えよう。収穫祭の準備は既になされているようで、並べられた巨大な野菜や工夫の凝らされた装飾が見た目に賑やかだった。案内のもとたどり着いたクレープ屋からは生地の焼ける香ばしい匂いと、小分けに並べられた果物から甘い香りが漂う。おいしそう、と口元が緩むのは自然なこと。)クランベリーとクリームが乗ったものがいいわ。お兄さんはどうする? 焼き菓子と両方食べる? お昼というより間食ね。(色とりどりの果実に目移りして、たっぷり悩んだ後に指をさし、注文は店員ではなくお兄さんへ。無事受け取れたのなら、食べ歩きらしくそのまま焼き菓子屋へと向かう心積もり。)
* 2022/10/29 (Sat) 19:02 * No.94
(ままならない、まさにその通りだった。今となっては遠い日の苦い思い出に胸を痛めたりしないが、あの頃のようにうまく魔法を使える気はしない。時間で薄まった感情を、己の分まで姫が引き受けてくれたような様子だったので申し訳なさを感じていた。)きっと良い寝床をご用意くださるのでしょうね。風のものは移り気ですが、案外気に入って長居してしまうかもしれません。(姫が用意した物であれば、己の魔法は掛かりが良さそうな気がした。有り体に使う魔法と、強い思い入れを持った魔法とでは効力は段違いである。とは、いつぞや読んだ魔法書の格言だったか。小さい姫がテディベアを抱いている姿を想像してしまい、緩みそうになる口元をどうにか堪えようとして、抑えきれないと悟れば顔を背けた。笑ってしまったのが、雰囲気で伝わってしまったかもしれない。下手に誤魔化したり言い訳するよりは、素直に謝るのが誠実であろう。深呼吸をひとつ置き、姫へと向き直る。)……すみません。小さかった頃のナーシャも、とても愛らしかったのではないかと想像して、つい。テディベアさんにお目通り願いたいのですが、難しいでしょうか?(付き人になってから姫に呼び出された先で、テディベアを見たことはなかった。つまり、己がおいそれとは入れないような部屋で大切にされているのだろう。賑やかな町では人々の話し声や、人や物が行き交う音で溢れていたが、か細い姫の声でも己の耳は必死に拾いたがった。城下町の警備に当たっていた際に何時ぞや見つけたクレープ屋は健在で、時間帯のせいか幸いにも空いており、すんなり彩り豊かな店先へ。)両方食べたいのは山々ですが、空腹は最高の調味料と言いますし大事にとっておきますね。(姫の注文を承り、店員に伝えてしばらくすれば、焼きたての生地にクランベリーとクリームがたっぷりのクレープが出来上がった。それを姫へ恭しく手渡して、祭の装いに染まる街を眺めながら別の菓子屋へと向かおう。姫がゆっくり食べられるように、咀嚼を終えたタイミングを見計らって話しかける。)焼き菓子は多めに買っても良いでしょうか? 普段お世話になっている方々にお渡ししたく……ナーシャは受け取ってくださいますか?(躊躇いがちに問いかける自信なさげな声色は、お忍びの設定に甘えて距離感を見誤っていないかを恐れていた。)
* 2022/10/29 (Sat) 21:12 * No.96
すぐに出て行ってしまったなら居心地が悪かったということね。何にしようかしら。リボンは収まりが悪そうだし……ペンダントがよさそう。(妖精の寝床について真面目に考えながらも気負った様子はなく、装飾品を思い浮かべる。ペンダントなら服の中に入れてしまえばつけているか分かりにくいし、服装に左右されなさそうだと一人頷いた。)そうね、今が“可愛いナーシャ”なら昔も可愛いのではなくて。言っておくけれど、テディベアは喋らないし動きもしないわよ。(騎士の方は見ないようにしていたのに、顔を背ける動きに却って表情を察してしまう。返事は適当に、もの言いたげに目を細め、ままごとのような真似はしないと予防線を張るのがせめてもの抵抗だった。注文されたクレープはガラス越しに作られるところが見れて、薄く伸ばされた生地が焼き上がり、トッピングが包まれる様を物珍しく眺める。受け取ればさっそく店先で一口。それから空腹の騎士を待ち望む菓子屋へついていこう。噛みしめればクランベリーの酸味が口に広がり、甘いクリームとの相性は定番ながらおいしい。焼き立てのもちもちした食感もゆっくりと味わって、感じたままの味を報告した。)お土産、いいんじゃない? 許可をとるほどのことではないわ。あえて言うのなら『可愛いお嬢さん』はお世話をされる方だけれど、受け取ってあげる。(口の中が空になった折、訊かれた内容には首を傾げ、心底わからなさそうな軽い口調で答える。受け取ることに関しても、消え物ならば気楽なものだ。)お菓子を買ったら露店を適当に見て回って、日が暮れる頃には戻りましょうか。(早朝から準備した甲斐あって日はまだ高い。夜の町並みや森の紅葉も興味引かれるけれど、引き籠もりの外出には充分すぎるほどの長い時間だった。)
* 2022/10/30 (Sun) 05:28 * No.98
リボンは妖精が遊んでしまいそうですからね、ペンダントはとても良いと思います。(姫が前向きに考えてくれているのが嬉しくて、ただの返事が何気なく弾んでしまった。ペンダントには慎重に、しっかりと魔法を掛けることにしよう。有事の際は、御身を必ず守れるように。自身の可愛さを否定しない姫に、芯の強さが伺えて静かに敬服した。)テディベアさんは、言うなれば私の先輩に当たるでしょう? であれば、ご挨拶に伺うのが筋かと思いました。ご安心ください、寡黙な方にも私は礼儀を尽くします。(姫に付き添うものとして先輩、という意味である。何の仕掛けもないごく普通の、姫が連れ歩くほどの愛々しいテディベアなのではないかと勝手な妄想は膨らむばかりだ。クレープを食べている姫がこれまた可愛らしくて、味の感想を聞かされたときは反応が一瞬遅れてしまう。お口に合って何よりです、とお決まりの言葉を返しておいた。土産について色よい返事をもらえたならば、ほっと安心した顔付きになる。)ありがとうございます。『お隣に住んでるお兄さん』は世話を焼くのが好きで、お世話をさせてもらえる相手に……厚意を厚意として受け取ってもらえることに感謝すべきなのですよ。私が良かれと思ったことが、相手にとっては困ることだった、という場合もあるでしょう。今の場合で言えば、ナーシャはピスタチオの焼き菓子があまり好きでないかもしれませんし、クレープを召し上がったのでしばら甘いものを控えたいとお考えかもしれません。私がいくら考えたところで、本当の答えはナーシャにしか分からないことがありますから。(そもそも己から菓子など受け取りたくない、という卑屈な選択肢は胸の中に仕舞っておいた。焼き菓子を買うにしても紙袋で片手に持てる程度の量に留め、もう片方の利き手は必ず空けておくと決めている。)かしこまりました。今の時期にしか出ていない露店がありますし、見聞を深めるには良い機会でしょう。葡萄のワインをお勧めしたいところですが、それは来年にしますね。(姫へ酒を勧めるのはさすがに憚られたが、成年祝いに生まれ年のワインを贈るぐらいは許されるだろうか。それまでにワインが好きか嫌いか分かれば良いのだけれど。そう遠くない場所にあった菓子屋に辿り着き、ピスタチオの焼き菓子を無事に買い終えたなら、露店が並ぶ通りへと姫を案内しよう。何か興味をそそるものがあれば幸いだが、ただ見ているだけでも庶民の様子や町の活気は感じられるはず。例年であれば収穫祭前は警備体制が強まるので、こんな風に客としてゆっくり歩くのは久しぶりだった。)
* 2022/10/30 (Sun) 20:29 * No.100
風の妖精に遊ばれたら流行の先端を走れそうね。大人しくペンダントにするわ。(とんでもない髪型になりそうだと、くるくると髪の毛を指で回し示す。ペンダント、いいものあったかしらとジュエリーケースの中を思い出そうとして、まったく浮かばずに後の自分へ任せることにした。テディベアの話には本気で挨拶する気かと戦慄し、「気が向いたらね。」と話から逃げて、土産話には少し眉が寄ってしまう。)……、要するに、ピスタチオのお菓子を食べるか訊いているだけなのね。許可がないとお土産一つ買えないのかと思ってしまったわ。(厚意を厚意として受け取る。苦手だなって、話を逸らした。――今朝のできごとだってそうだった。記憶にないことをフォローしてくれたのだと、ありがたく嬉しく受け取るべきだったのだろう。本当に感謝すべきなのはこちら側なのに、何もなかったことにして、この人は気にしないのかな。)ワインっておいしい? 今後の人生でワインを飲むか飲まないか、エリックさんの手にかかってくるわ。責任重大よ。(悪戯にプレッシャーをかけて、笑みを浮かべる。アルコールに興味はなかった筈なのに、楽しみになった。菓子屋では勝手にカボチャのマドレーヌも追加して荷物を増やし、しょっぱいものも食べ歩き、露店を冷やかし回って、やがて夕焼けに照らされる帰路へとつこう。城内では今朝の騎士が駆け寄ってきて、侍女にイヤリングを渡してきたと律儀に報告してくるものの、隣の騎士へやたらと尊敬の眼差しを向けている気がする。部屋へと戻り、ピンキーリングを返却して、今日は歩き疲れたからすぐさま解散。妖精を借りる件が残っているけれど、避けるのはもう止めたから問題ない。襲来してくる姉を振り払い、テディベアを押し退け寝台へと潜り込む。なお『下僕』について問いただせば「もちろん冗談」とのこと。そうして後日、騎士を自室に呼びつけ差し出すペンダントトップは、黄金に煌めくヘリオドール。本当はアンバーがよかったのだけれど、インクルージョンに個体差が出てしまうから、次にピンときて選んだものだった。太陽の名を冠するその石は、彩りが失われゆく時のなかでも、美しい輝きを放ち続けよう。)
* 2022/11/2 (Wed) 23:06 * No.107