一章
Half of Daytime

 “末の姫”を取り巻く小さな輪に、付き人が増えた。
 騎士団所属のその男に、職務としての不満は無い。ただ難はある。彼はとかく例外であったのだ。王室が抱える最大の秘め事、建国神話に楯突き国が忌む双子を生き永らえさせているという環境の外側に触れさせながら、彼にはこの機密を明かしていない。明かさぬままで傍に置いている。
 今日はどこに付き添わせた。
 どういった話をした。
 誰が一緒だった、それから――。
 外向けの末の姫はひとりきり。二人は一人を騙って生きる。そのための記憶の共有、口裏合わせは日常だ。慣れた馴染んだなんて話ではない、自分たちが自分たちであるために、呼吸と同じように為さねばならぬこと。

「――しかし姫様、先日は……」
 戸惑いを含んだ針子の言葉に察した。自分は恐らく“先日”と意見を違えたのだ。ここしばらく余計な緊張が続いていたものだから、次の夜会で付ける予定の装飾品なんて些細なことは意識から抜けていた。億劫が顔に出たのだろう、王室の不興を買ったと知る針子が、大きさや形のさまざま、青玉ばかり取り取りにきらめくジュエリートレイを捧げ持った姿勢で身を強張らせる。
 もういいから、耳飾りなんて何だっていいから下がって。
 口にしようとした刹那、震える針子の手からトレイを取り上げた手があった。
「姫様は先日、ご臨席になる兄王子殿下に合わせたいと仰った。殿下は青色を好むから、恐らく青と。けれどわからないから、先にあちらのご意見を窺ってくるようにと。窺ったうえでの現状かい?」
「は、はい……」
「なればよろしいよ。姫、些か言葉を端折り過ぎましたね。開口一番“なぜ青ばかりなの”とは」
 笑う男は付き人である。――本職は騎士だったか。これが護衛の要るような場でなくも侍ってくることが緊張の所以なのだから、元凶が取りなしたところで何ということでもないけれど。
 見慣れ馴染んだ顔になっていた。その顔が笑って、ふと息を吐く。そうねと頷けば、針子も幾らか安堵したようだった。


  • 一章は、騎士と姫のごく普通の日常の一幕です。出会いの序章から中秋現在を迎えるまでのお互いへの接し方の擦り合わせや、相互に今「普通」と認識している様子を描いてください。
  • 場所は王城か城下町、移動も含めて自由です。時間帯もお好きに設定していただけますが、いずれも他のNPCが一瞬なり接触できた範囲としてください。
  • この日騎士と過ごしているのはPCである妹の姫となりますが、日頃からどの程度こちらの姫と接しているかは、姫の設定によります。大半がNPCの姉が交流を持っていても、その逆でも、綺麗に半々でもお好きにしてください。
  • 遣り取りの途中で、姫は他のNPCより、自分の知らない(姉とうまく情報共有できなかった部分の)話を振られるシーンを入れてください。騎士はその当時に同席していたため、妹の姫が知らない情報を教えてあげることも出来そうですが、互いにどのように対応するかは自由です。助け舟を出しても良し、何も触れなくても良し。敢えて意地悪することも出来るでしょう。
  • 一章において、姫は自身が双子である旨を決して明かさないでください。騎士がどのような印象を持っているかは自由です。