四季の緩やかなこの国でも、吹く風の温度が昨日と異なると思った。近いうちに、この日が今季の冬の初めであったと振り返るのかも知れない。父に呼び出しを受けたのはそういう日だった。
王室の末の姫に、重要な話がある。だから時間と場所と、――ひとの指定を受けていた。明確な指名で以て、姉が行くはずだった。けれど。真っ青に血の気を落とした額に手を当てて、ごめんなさい、と姉は言う。今朝からの冷え込みで風邪を引き込んだのだろう。
少し容態を見ていたが、このような状態で部屋を出るべきではない。かといって、王命に等しい今日の予定を無視するわけにもゆかない。溜め息を吐いて、ひとまず自分が向かうことにした。代理にもなりはしない。“末の姫”は表向きは一人、どちらが顔を出したって誰も判別できないはずだ。
よもや赴いた先で、姉と同じ顔色になろうとは。
「おまえの婚約が決まった」
会議室に集ったのは父、継母、そして兄と姉が幾人か。それぞれの付き人が控える空間で父王がそう告げ、後の話は外務大臣が引き継ぐ。婚約の内定。相手は隣国の王家筋、年頃も近い。年が明ければ正式に国内外へ公表し、来年のうちに輿入れとなる。長年良好な関係を築いてきた友好国だ。曰く付きとはいえ、この身は確かに王の娘。相応に迎え入れられることだろう。ひとりの、人間として。
そう、ひとりの人間として。
「長らく不便をさせただろう。おまえもこれで、一人前だ。――そうして其方は、姫が国を発つまで確とこれを護れ」
父がどのような顔でそう言ったのか、よくわからなかった。傍らの騎士がどう頷いたのかも。
- 三章は、二人が“末の姫”の婚約を知った直後の一幕です。“半分の姫”が王族として結婚し、他国へ出て行くことに関して、それぞれ何を思うでしょうか。今後の展望を語ってみましょう。
- この日、会議室に呼ばれていたのは本来NPCである姉でした。経緯は自由ですが、実際に出席したのはPCである妹となり、またその事実を他者に伝えられないまま話が進んでいます。
- 付き人である騎士は男性であるため、儀礼的には姫の輿入れに付いて行くことはできません。無理を押せば可能かも知れませんが、とりあえず王室から良い顔をされないだろうとは察するでしょう。
- 姫の輿入れ先は近隣諸国の王室、または公爵家で、現状の調査の限りでは条件や先方の人柄に問題は感じません。向こうでも直接に王位継承権等に触れることはないでしょうが、有力貴族としてキュクロスとの橋渡しになるでしょう。
- スレ立ては会議室を出たところから開始し、以降の移動はお好きにどうぞ。時間帯も自由ですが、この件の追情報を得られない当日中としてください。
- 姫は騎士に対して、自身が双子である旨はお好きに話して構いません。話さなくても構いません。四章で父王より開示し、終章では真相が知れた状態での対話となりますため、先に自分から伝えたければこの段階で話したほうが良いでしょう。